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3日後の自分を自分で褒めたい

「はじめまして。好きな食べ物はプリンパンです!」
教室が白んでいくのが今も目に浮かぶ。新生活開始8分、自己紹介でアタシの運命は決まった。

高校デビューに失敗し、クラスのカーストを真っ逆さまに落ちたアタシ。

だから、3日後のマラソン大会が憂鬱でしょうがなかった。
秋の朝はほんのり肌寒く心地よいけれど、マラソン大会のことを思うとそんな気分も薄れてしまう。

分からない。あー分からない。
マラソン大会のうまい過ごし方が分からない。友達や男子とだべって走るのが正解なんだろうけど、クラスに友達はいない。黙って走る? 横並びに歩く女子に混ざる? 休む? なんかどれも違う気がする。

放課後、モリモリ山に寄った。近所の公園にある山だ。

「でも。なつき、中学時代中距離やってたんでしょ? 目立てるじゃん」
「マラソンで目立っても意味がない。てゆうか、目立ったらダメなの。地獄行きだし」
「地獄? そうかねぇ」

クラスは違うから普段はなかなか会わない香織。昔からの幼なじみ。
香織は勘が鈍い。自分が二軍女子だってことも肌荒れがひどいことも自覚がない。それはそれで幸せなんだろうけど……。
普段はなかなか会わないんじゃなくて、ちょっと避けていることは話していない。

「なつきはさ、あたしにとってスーパースターなんだよ」
「どこが? 日直でもないのに黒板消しさせられてるんだよ」
「凡人界のスター」
「うれしくない」
「なんていうかさ。大谷翔平とか藤井聡太って天才じゃん。頑張ったから今の自分がいますみたいな、こと言うじゃん。ああいうの信じられない」
「……。アタシなら信じるってこと?」
「なつきが頑張ってる姿を見たら信じる。そういうきれいごとも」
「……なんかアタシ、貶される気もするんだけど」
「とにかく全力出して」

マラソン大会の前日。

香織は死んだ。走る電車に飛び込んだ。部屋にはビリビリに破られた通信簿が捨てられていたらしい。
アタシは気づいてあげられなかった。香織はすごく敏感で繊細な子だった。

アタシは走って、走って、走り抜いた。マラソン大会をこんな全力で走る生徒はいない。「やらされる」「バカにする」ためのイベントだ。

でも、アタシは証明したかった。
努力は必ず報われる。凡人のアタシにだけできる証明。

誰も見ていない表彰式でアタシは賞状を受け取った。2位。

次の日からまた冷たい視線を浴びるようになったけれど、アタシは誇らしかった。
もう褒めてくれる人はいないけど。

今日だけは自分で自分を褒めたいと思う。


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