ロマンス詐欺の神様どうもありがとう!
昨年、独り身だった母親が亡くなってしまった。
年齢も年齢だったし、東京と地元の往来は正直しんどかったしで、そんなに悲しくはなかったけれど、なぜか身が引き締まる思いに駆られた。
私は40歳を超えてまだ独身。
きっと母のような悲しい死が待っているに違いない。
もう強がりとか諦めとか、聞こえのよいことは言っていられない。
そう、強く思った――。
それから数週間後、結婚相談所に行った。
しかし、私の要望を伝えるとスタッフは表情も曇らせて、今にもつきそうなため息をこらえて、作り笑顔でこう言った。
「裕美さん、もっと柔軟に探してみましょうか」
無理だった。昔よりちょっとシワが増えたという自覚はある。カラオケで若手社員の歌う歌はサビも聞き覚えがない。
それでも私は私だと思っていたし、容姿にはまだ自信があった。
結果はさんざんだった。
相談所が運営するアプリを使ってもなかなか良い返事はもらえないし、メッセージが来ても長続きがしない。
第一、出てくるのはどれもこれもおじさんばかりで、私よりも年収がずっと低い。
やってられない。アホらしい。
私は普通のマッチングアプリを始めた。
「1人でさみしい。真剣な恋の相手を探しています」
突然マッチングアプリにメッセージが送られてきた。
送り主はフランス人の20代男性。
ワイルドながらも品性のある顔立ちをしている。
これはもう。完全にタイプだ。
それから拙い日本語のカレとメッセージを続けた。
留学で日本に来てからは大学院に行く勉強をしているらしい。
頭もいいなんて素敵。最高。
「会いたい」
「お金に困っています。少しだけ支援してほしい」
カレの要求がより密接になっていく。
「いくらぐらい」と送ると、「100万円」と来る。
でたらめな男たちにお金を費やすぐらいなら、華があって未来に満ちたフランス人にお金をあげたほうがいい。
電話だってした。渋い低音と不慣れな日本語がまたそそる。
ついにはヨハンの口座にお金を振り込んでいた。
「ありがとう。女神様」
女神だなんて。胸がキュンキュンした。
国際ロマンス詐欺だった――。
そんなことは知っていた。
ニュースでよく見ていたし。
でも、でも、私は私を満たしてくれる人が欲しかった。
ロマンスなんてそんなもんだ。
さぁ警察に通報しよう。