トリオのブレーンは今日もコーヒーゼリーの汗をかく
今年の賞レースも3回戦で負けた。
まだ4年目。まぁまぁ順調だと事務所のチーフマネージャーはテキトーに励ましてくれるが、そんな言葉を鵜呑みにしていては売れるわけもない。
トリオ芸人がテレビのひな壇で売れるはずがない。
俺たちは賞レースを勝ち抜かなければ未来がない。
そんなことぐらい、俺たち自身が一番分かっている。――つもりだ。
このトリオのネタ作り担当は俺だ。ツッコミであり、ブレーンだ。
相方二人はあてにならない。飲みに出歩くかギャンブルをするかしかしていない。しかも、それは誰かの話題にあがることもない。
そのくせ、二人とも100万以上の借金があるから笑えない。マジで。
今日もファミレスでコーヒーゼリーを頼んで、パソコンとにらめっこしているが、全く面白いネタが思いつかない。
ここのコーヒーゼリーもいい加減食べ飽きて、ほとんど口を付けない。
申し訳程度に冷えたコーヒーゼリーは容器に水滴が溜まり、テーブルにポツリポツリと雫がしたたっている。
生まれつき目が見えない小ボケと思ったことを何でも口にしてしまい、SNSで暴言を吐きまくる大ボケ。
思えば4年前。
コンビ解散して沈んでいるときに声を掛けられたから組んでみたが、一定の笑いを取ることはできるようになったが、なぜだかネタの中身では笑ってもらえない。
自然体な言葉選びと簡易的なセット、日常を切り取った違和感と壮大な伏線回収を盛り込んだ俺のネタとは、どうにもこうにも合う気がしない。
すっかりガビガビに乾燥したコーヒーゼリーをむさぼる。
何の策を思いつかない。
でも、芸人はこんなところで諦めてはいけない。
夢を追っているだけで偉いのだ。
あの人に笑ってもらうため、俺はトリオでコントの王様になると決めている。
ピンポンを押す。
「コーヒーゼリーをおかわり」
きっと報われる。