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寿司屋のセガレがシロクロ付ける
ったく、もう。
うちのせがれのやつがよぉ。
オヤジの代から続けてきた寿司屋を継がずに、刑事になりやがったんだよ。もぉ。やってらんねぇよ。
今はそう。湾岸署? レインボーブリッジ封鎖したかったのか、あのガキ。
シャリ握らずにチャカ握って。ざけんな。
せっかく少年マガジン買ってやってたのに、将太の寿司より金田一に夢中になってよぉ。金田一は刑事じゃねぇーての。
高校出るまでに、あいつには店の手伝いをさせてありとあらゆるノウハウ、技術ってぇやつを教えてきたんだぜ。
なのに、警察学校行くとか言い出して。家飛び出したんだ。
「俺は――刑事になりたい。寿司屋なんか嫌だ」
ってよ。
寿司屋なめんなよ。こっちもプライド持って仕事やってるんだぜ。
最近じゃ外国人客も増えてかなり行列もできるし。
間につまむガリよりも張り込みのアンパンが好きなんだ、と。ばかやろうが。
トロ、軍艦、いか、まぐろ、アナゴ、中トロ、サーモン、いくら、アジ、鉄火巻。
なんでも作れるように教えてきたよ。
あいつには腕があった。店を任せられると思ってたんだ。照れくさくて言えなかったけどよぉ。そういう古ぃ態度がよくなかったのかもなぁ~。
あいつなりに悩んで、葛藤してたのかもなぁ。
「あのぉ。大将」
大将がペラペラと辛気臭い会話を続けるので、俺は話の腰を折った。
「息子さん、継がなかった理由。俺分かってて、」
「あん。なんだ、てめぇ」
ここが回転寿司屋だからだ。めっちゃチェーンで、かなり安くて、やばいぐらいメニューが豊富で、子供も楽しめる店。
もちろん、最高だけど。
継ぐのは違うって思ったからですよ。
広い店内を回るベルトコンベヤーの音だけが鳴っている。
「…………。ばろーめー。ふざけんな。出てけ!!!」
俺は慌ててお金を電子マネーで払って店を出た。
納豆巻、茶碗蒸し、メロンがのっていたカラフルな皿が光っていた――。