
モス
うま。冷めてもうま。冷めたほうがうま。
ハンバーガー屋のポテトは、その店のアイデンティティであると思う。
でもその個性や違いを語ったり、優劣や好き嫌いをひけらかすのは野暮だ。あくまで添え物として黙って味わうからこそ意味があるのだ。
そんなことを小学生から考えていたら、周りから友達が消えていた。
今も一日中誰とも喋らない日なんてザラだ。
あぁ32歳の夏。
編集者に頼まれて、事故物件に住むように依頼された。1年間とりあえず住んでみて、何か起きたことを連載にしたいとのことだった。
霊感もなければオカルトも都市伝説にも興味がない。好きなのは小難しい海外文学ぐらいだ。
でも仕事。フリーライターなぞ、使われてナンボの身だ。
204号室に住んで二週間。何も起きない。デリヘルを呼んでみてが、嬢にあっさりイカされた以外は何も起きない。
これで仕事になるのか。
とにかくボロい家だ。押し入れと呼んだほうがよさげなクローゼットの中に繭を見つけた。
白くて気高い繭。初めて見た。
そいつは日に日に増大していった。
やがてそこから人間が現れた。
髪の長い綺麗な女性だった。色白で肉感的な体は見惚れる限り。
一人きりの俺の家に余分な服はない。
白いバスタオルでくるんであげた。
それからその女性と俺との共同生活が始まった。
こういうのって、何日も過ごすうちに愛情が芽生えるやつだと思っていたけれど……。
その女性は2日ほどでいなくなった。
物語はそこからだ。