老後は俳句で愛を語らいたい
定年を迎えた瀬田稔と妻・てる子は熟年を迎えて、お互いの関係がギクシャクするように。稔は家庭を顧みず、趣味の「俳句」に没頭しており、独身を貫くアラサーの娘・のぞみにも無関心だ。
てる子は離婚届を役所から取り寄せていた。
そんなある日、稔は病気で意識不明になり一命を留めるものの、うまくしゃべることができず、「五・七・五」の俳句でしか会話できなくなってしまっていた――。
周囲から変わり者扱いされ、一人ぼっちになる稔を心配するてる子。しかし、稔は俳句でしか会話をしてくれない。しかもそれは妻への嫌悪感を意味する句ばかり……。
医師に診てもらう治療は難しく、途方に暮れるてる子は、二人の新婚旅行の地・熱海へと出向く。
旅先で仲睦まじい新婚だった頃の記憶が蘇ってくるてる子。しかし、稔はてる子を気にも留めず、相も変わらず「俳句」を詠み続ける。
ヒマワリ畑へ。我慢の限界に達したてる子は、カバンに入れてあった離婚届をそっと差し出す。
すると、稔は立ち止まって斜め上を見る。
「ひまわりや 黙って向かん 照るほうへ」
俳句の意味を語るのは野暮ったいと夫はムッとするかもしれない。
向日葵が照り続ける太陽の方角を向き続けように、これからも私(てる子)のほうを黙って向き続けたい。そんな意味が込められた句だった。
涙と少しの汗を流しながらはてる子は夏の暑さを染み入られせていた。
てる子はこの先も稔との余生を過ごすことを決める。
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