【大津市】路地裏にある古民家カフェ。50代からのReスタート
『50代からの本さんぽ』へようこそ。
このシリーズは、50歳を迎えた本好きライターが素敵な本屋さんを取材し、その本屋さんの「本」に向けた思いを訊き、そこから私にとって「本」はどんな存在なのか考えてみようと始めました。
第3回目は、書店ではなくカフェのご紹介です。私が理想とする本を読むための空間が広がっているお店です。
お店の名前は『カフェ ゴジュウカラ』。JR大津駅の改札を出て、琵琶湖に向かって歩くことおよそ10分。平日は多くのビジネスパーソンで賑わう通りの路地奥に2024年5月30日オープンしました。
古民家を改装してできた『カフェ ゴジュウカラ』には、窓に面したカウンター席が設けられています。そのカウンター席に座って本を読むのが、私にとって至福のひととき。
さらにお食事もバツグンに美味しく、居心地良しなのです。本当は内緒にしておきたいところなのですが、私のようにカフェで読書を楽しみたい人のために、こっそりご紹介しましょう。
店名に込められた姉妹の思い
このお店は姉妹が二人三脚で営業されています。三姉妹の真ん中である店主の「きみちゃん」と、末っ子の妹「かおりちゃん」のおふたりです。(以降、そう呼ばせていただきます)
店名につけられた『ゴジュウカラ』。シジュウカラという鳥がいることは知っていましたが、それと何か関係があるのでしょうか。
ゴジュウカラという鳥は実在するそうで、日本では北海道から九州までの、よく繁った落葉広葉樹林にすんでいます。
その思いで『カフェ ゴジュウカラ』と名付けたそうです。
このお話をすると、同世代のお客さんも共感してくださるそう。人生後半とはいえ、これからチャレンジするその思いは、同じく同世代である私にもよくわかります。
カフェを始めたきっかけは、ご主人のひと言
カフェを始めるまで、おふたりは別のお仕事をされていました。
それがなぜカフェを開くことになったのでしょうか。それには、あるひと言がきっかけだったそうです。
ある日、店主のきみちゃんはご主人から「また喫茶店をやりたくない?」と言われました。そのとききみちゃんは50歳も半ばを過ぎた頃。この歳からでは無理だと一旦は断ったそうです。
『カフェ ゴジュウカラ』を開店する20年近く前まで、きみちゃんとかおりちゃんのご両親は同じ大津市内で喫茶店を営んでいました。
そして実は、きみちゃんのご主人が「喫茶店をやりたくないか」といったのには理由がありました。
きみちゃんたちのご両親の喫茶店が閉店するとなったときのことです。ご主人のご両親。つまり、きみちゃんの義理のご両親が「閉めるくらいなら買い取ってやり続けたらどうだろう?」と提案してくれました。そのときのことをずっと覚えていてくれたからこその、ご主人からの提案だったそうです。
ご主人からの提案に一度は断ったきみちゃん。そんな話しをされたことを妹のかおりちゃんに何気なくしたところ、「一緒にやりたい!」と生き生きした声が返ってきました。
そこからは話しはトントン拍子に進みます。かおりちゃんは長年勤めたホテルを退職し全面的に協力。二人三脚で『カフェ ゴジュウカラ』をオープンすることができました。
きみちゃんはかおりちゃんが長年勤めた仕事を辞めてまで手伝うといってくれたことが嬉しかったそうです。「とても私ひとりでは実現できなかった」そう話してくれました。
両親への思いと同じように大切に扱う
プライベートで最初にこのお店を訪れたとき、壁に掛けられた年季の入った看板が目に留まりました。
聞くとこちらの看板は、ご両親の喫茶店に掛けられていたものだそう。
そのお店が開店するときのお祝いにいただいた看板で、かれこれ40年以上前のものです。お店の歴史を見てきたといっても過言ではないその看板は、「何度も磨かれので「香り」の文字が薄くなってしまいました」と、きみちゃん。
ほかにも『カフェ ゴジュウカラ』では、ご両親がお店で使っていた食器類が使用されています。
使い込まれたやかんは、ご両親の思いを大切にするため定期的に磨いて使用しているのだそう。
コーヒーカップや食器類の一部にも、ご両親のお店で使っていたものを使用しています。
どれもこれも、言われなければ分からなかったほど真新しく見えました。それだけご両親は、物を大切にされてきたのでしょう。
ご両親の物を大切にする気持ちを、娘であるお二人も引き継ぎ、同じように大切に使われているのを知り、きっと人に対しても同じなんだろうなと思いました。
ご両親の思いを引き継ぎ、物を大切に扱うように人のことも大切にする。 これだなと思いました。『カフェ ゴジュウカラ』に居心地の良さを感じるのは……。
カフェではそれぞれ好きな過ごし方があり、その時々で過ごしたいスタイルも変わります。ひとりでぼーっとしたいときもあれば、話したい気分の時もあるでしょう。
そんなお客さんの思いを敏感に察し、いい塩梅で接客してくれるので「ここにいても良いんだ」という居心地の良さを感じるのです。
亡きお母さんを思いながら
『カフェ ゴジュウカラ』で出すお料理は、なるべく加工品を使わないようにしているのだそうです。
「その代わり、凝ったお料理は作れませんが」とは料理担当のきみちゃん。
例えば白身魚のフライは、魚を仕入れるところからはじめてパン粉は手作り。キャベツの千切りも仕入れるのではなく、店内で千切りにしてお出しするのだとか。
私がいただいたのはハンバーグセットでしたが、ハンバーグは肉汁がじゅわーっと溢れ、ソースが良い具合に絡んで実に美味しかったのですが、添えられたキャベツの千切りの美味しさは正直驚いたほど。
料理を作るときよく思うのだそうです。もっとお母さんにレシピを教わっておけばよかったと……。お母さんが亡くなった今、残念ながら叶うことはありませんが、お母さんがつくるのを傍らで見ていた記憶を呼び起こしながら、つくっているのだそうです。
一方、妹のかおりちゃんはデザート担当。ハンバーグセットを美味しくいただいた私は、別腹だし~と、珈琲とチーズケーキをいただきました。
これがもう絶品! 底にひかれたサクサクの生地。そのうえのチーズケーキはさっぱりとしたお味。もっともっとと口に運びたくなる美味しさで、添えられたジャムも手作りです。
珈琲についてもエピソードがあります。豆は滋賀県守山市にある焙煎所から仕入れていて、そこの店主の方の言葉にきみちゃんは救われたそうなのです。
「プレオープンもせず、路地裏にあるカフェにお客さんに誰も来てくれなかったらどうしよう」
それを聞いた焙煎所の店主さんから「私たちもそうだった。二人でやるのに広告出してたくさん来てくれても二人では対応しきれないと思った。ゆっくり右肩上がりにいけば良いんじゃない」と言われ、きみちゃんは肩の荷が下りました。
そういう考え方があるんだ。実際に乗り越えてきた方の言葉を信じてやっていこう。人から人へ伝わり、良い店だと思われるように頑張ろうと思えたそうです。
それからは姉妹で二人三脚、チカラを合わせてやっていると少しずつお客さんが増えていきました。
50歳を過ぎた今だからやってよかった
お話しを聴いていると、「ご縁」という言葉が度々浮かんできました。ここに書き切れないほどの人と人との繋がりが、『カフェ ゴジュウカラ』から伸びている。そう感じられるピソードがたくさんありました。
そのなかでひとつ、このお店が愛されてるな~と感じたエピソードをご紹介しましょう。
取材に伺ったその日、隣の席に学生さんが座って勉強をしていました。その隣でインタビューしていた私は、取材後にうるさくして申し訳なかったですと挨拶をしたのですが、彼女は全く気にならなかったよう。人の話し声が聞こえた方が勉強が捗るんだそうでとても好意的に接してくれました。
「このカフェは落ち着くんです」そう話してくれました。
なんと、かき氷のメニュー表は絵心のある彼女のお手製なのだとか。優しいタッチの絵が彼女の雰囲気に合ってます。
こんな風に、これまで築いてきたご縁にこれから始まるご縁が合わさり、ますますステキなカフェになっていきそうな予感がします。
きみちゃんも、「カフェをやっていると思いがけない人との繋がりに驚くことが多いんです」と話してくれました。「だからこそ、若いときではなく50歳を過ぎた今、だったんだと思います」。
最後に、お二人にとって『カフェ ゴジュウカラ』はどんな場所ですかとおうかがいしました。
返ってきた言葉は「笑顔に会える場所」「ほっこりできる場所」でした。
人生、ムダなことは1ミリもない
取材しているあいだ、やはり人生って点と点が線になっていくんだなとの思いが度々浮かんできました。
これまでの人生経験を活かし、そこで生まれたご縁によって『カフェ ゴジュウカラ』が誕生。言わば、いくつもの経験という点から生まれたご縁という線が、やがて面になって『カフェゴジュウカラが』オープンしたような。
これからこのカフェでさまざまなストーリーが生まれていくのでしょう。そして大津の地にしっかりと根付く立体=心安らぐ居場所になっていく。
本を読むために、そしてお二人との会話を楽しむため、近いうちにまた行こうと思います。
『カフェ ゴジュウカラ』
【営業時間】10:00〜18:00(17:30L.O)
【定休日】 日曜日・月曜日
◆京阪びわこ浜大津駅より徒歩6分
◆JR大津駅より徒歩9分
〒520-0043 大津市中央二丁目3-15
TEL : 077-500-9947