ショート「消した救世主」
ある日の昼間、自転車に乗った女子高生が小学校の門の壁にぶつかり、大怪我を負った。その怪我人が私だ。
スピードが速かったせいか、壁に頭を強く打ち、地面には大量の血が流れていた。
「怠い・・・。痛い・・・。マジで怠い・・・。体も動けない・・・。誰か・・・。」
仰向けに倒れたまま、喋ることもできず、心の中で助けを呼ぶ。
すると、運が良いことに、3人の子供が通りかかった。ちょうど、この時間は、子供たちが登校する時間だ。いつもこの道を走っていたから分かる。これで、この子たちに救急車を呼んでもらえる。
ところが、私のことは視線にも入らず、足早に去ってしまった。
なんでよ!
後々、考えてみると、遅刻しそうで、急いでいたようだ。
次々と子どもたちが走り去る中、自転車を漕ぐ一人の男が通りかかった。頑張って目を上に動かし、その人の顔を見る。すると、その男は、町で有名なお医者さんだった。この人なら、私を助けてくれるはず。
彼は、自転車を止め、私を見に来た。私のそばに立ち、全身を見渡す。これは、医療ドラマでよくある状態確認みたいな?
しかし、医者は、一瞬だけ口を端っこだけ開いた。多分、あの動きは舌打ちだ。その後、自転車に乗り、ストッパーを蹴り上げた。
えっ、重体患者なのに、見捨てる気!?なんで?も、もしかして、さっきのは、状態の確認じゃなくて、私のスタイルを見てたとか!?最低じゃん・・・。
頭がぼーっとし、そんな訳ない憶測まで、浮かんでは信じてしまう。被害妄想をしまくっている私だったが、医者が両足を地面につけ、自転車を止めた。子どもたちと話しているようだった。私は、気になり、重い体を頑張って動かし、耳を傾けた。
「助けてあげなよ!死んじゃうよ?」
「嫌だこった。だって、この女、ながらスマホしてるぜ。」
子どもたちは、医者が指を差すほうを見た。
「ホントだ。隣に、スマホがある。しかも、漫画アプリで、『シッパイサマリー』読んでたんだ。しかも、27話じゃん!ラッキー。いっつも、最新話か初回くらいしか読めないからさ。」
こんな時、私は、昨日のことを後悔する。スマホの画面がすぐ消えるから、画面が消灯するまでの時間を10分に設定した。そしたら、この前、撮らせてもらった友達の授業ノートを見ながら、ノートを書ける。あの時、「風邪で休んだから」と嘘ついて頼んだのは、ちょっと罪悪感あるけど。しかし、こんな災難に繋がってしまうとは・・・。
「コラッ!触ったら、濡れ衣被されるぞ。」
私のスマホを触ろうとする子供に、医者は、厳しく𠮟った。彼は、続ける。
「自業自得だ。こんなやつ、救ったって、同じこと繰り返すだけだ。ほらっ、早く行った行った。」
医者は、ペダルを踏み、前に進み始めた。
私は唖然とした。めっちゃ冷た。アニメやドラマで見る冷徹ドクターより、冷たいやんと。
だが、子供たちは、立ち止まったままだ。
子どもだけでは何もできない。けど、せめて、救急車だけでも呼んできて。そう願う私だったが・・・。
「先生もそう言ってる訳だし、行こうぜ。」
「そうだな。」
みんな、私の前から去ってしまった。
待ってーーー!
と、叫んでいるのに、誰にも、その声は、届かない。だって、心の声だし。
ここまで来ると、自分を責めたくなる。
あんな漫画、後で読んでもよかったのに。私、バカなことしたなー。
そんな後悔を抱きながら、私は、暗闇へと引き寄せられた。