ショート「彼との壁」

※この話は、フィクションです。
 「彼女」とか「彼」と言えば、みんな、最初に「恋人」という言葉が思い浮かぶ。私は、そういう当たり前が嫌いだ。

 高校生の時、私の男友達が、やたらと話しかけてくる時期があった。スマホのチャットで、話しかけてきたり、昼休み、図書室で出くわしたら、話しかけてきたり。別に、彼が嫌な訳じゃない。元々、彼と話すのが楽しかったし、ストーカーとも思ってない。ただ、嫌だった。だから、話しかけてきても、素っ気なく返事をしてた。会話が発展しない程度に。
 そして、私の予期していた最悪な事態が起きた。学校の帰り、私は、一人で歩いていた。その時、偶然、その男友達と会った。いつものように、彼は、私の横を歩き、会話を始めた。早く終わらせたい。そう思って、適当に合わせていると、後ろから、何人かの彼の友達がやってきた。
 彼らは、「彼女さん?」と聞いてきた。私と男友達は、否定をするけど、彼らは、聞く耳を持たず、舞い上がっていた。彼だけが、からかわれてるのは、分かってる。けど、私は、噂が広がるのが嫌だった。平穏無事に、三年間を過ごしたいのに、ありもしない噂で、クラスの笑い者にされたくなくて。私は、「こういうのが嫌だったの!」と怒って、その場から逃げ出した。
 電車に乗って、座席に座ると、我に返った。
 「私、酷いこと言っちゃったかな」と。
 前にも、同じようなことがあった。その日は、私の女友達と彼とで、三人で帰った。私は、悩みを抱えていて、それは、同性同士でなきゃ、話しにくかった。この時、私は、こう言ってしまった。
 「ちょっと、二人きりじゃなきゃ、話しづらいから、先に帰っててくれる?」
 「わかった」って言ってくれたけど、彼の顔は、ちょっと寂しそうだった。悩みは、解決したけど、今思えば、仲間外れみたいなことをさせちゃったなって、思ってる。正直、話しても、彼は、何の役にも立たない。でも、チャットで、彼女に相談すればよかったし。三人の時じゃなくて、彼女と二人きりの時に、話せばよかったし。彼を傷つけない方法は、いくらかあったのに。
 でも、他に、同性の友達がいたし、彼は、大丈夫でしょ。後悔を思い悩んでいたけど、さっきのからかっていた彼の友達を思い出して、安心した。スッキリした気持ちで、発車を待っていると、チャットの通知が来た。彼からだ。
 「さっきは、ごめん。僕は、単に、君と話したかっただけなんだ。」
 このメッセージを見ると、また後悔の念が戻って来る。私も、あなたと気軽に話したい。周りを気にしたりしてしまう。
 それから、彼は、学校や帰り道に会っても、話しかけなくなった。結局、まともに話したのは、ほとんど、チャットでのやり取りだ。

 卒業後、彼は、寂しい高校生活を過ごしていたことを、本人から知った。一緒にいた同性の友達は、他クラスの人たちで、たまに話す程度だったらしい。クラスでは、周りに合わせられず、孤立していたようだ。そのストレスを勉強にぶつけて、好成績を見せた。でも、それを妬む成績の悪いクラスメートたちにいじめられてしまった。図書室によく来ていたのは、いじめっ子たちから逃げるためだと言っていた。
 「つまらない高校生活だった」と言うメッセージを読む度に、私は、強い後悔を感じた。
 友達だから、一緒に遊んだり、話したりしてるだけなのに、カップル扱いされて。大人になって、食事したりしても、「結婚すればいいのに」とか、親に言われたり。なんなんだろ、性別って。

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