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あなたの夢はなんですか?

下田昌克さんのことを知ったのは2015年、「恐竜の絵ばかりの二人展をやろう!」と意気込んでいた年でした。それまで動物の絵ばかり描いていて、基本的に初めて描くモチーフに関しては絶対に資料を見るようにしていたので資料を探しに本屋さんへ向かいました。生物系のコーナーに行っても恐竜の写真は一向に見当たらない…「あ!そうか、恐竜って絶滅してるから生きてる状態の写真なんてないのか…!」と当たり前のことを気付くのに割と時間は掛かり…どうしようと思いつつ児童向けの恐竜図鑑をパラパラめくっているとあるものに目を奪われました。「骨…!カッコイイ!」化石なら発掘されてるから現存の資料があるし、何より「骨ってなんかいいなぁ!」と漠然とした想いが私の中を駆け巡ったのを覚えています。そのとき偶然「特設恐竜コーナー」みたいなスペースがあってそこで運命の本と出会いました。

恐竜の骨のぬいぐるみを被った子供たちの写真集で一目見た瞬間に心を奪われました。写真家の藤代冥砂さんとそれに詩を添えた谷川俊太郎さん。このお二方は知っていたんですがこの恐竜のぬいぐるみを造ったヤバい人は誰なんだろう?巻末を見てみたらどうやら「下田昌克」という人らしい。あとがきに載っていた文章も制作しているところの写真も自分でもなぜか分からないくらい異様に魅かれてしまい、それと同時に「この人と実際に会ってみたい」というワケの分からない感情が自分の沸き起こりました。

そして下田さんの他の書籍もいくつか購入し、彼の他の作品にも魅了されました。骨のぬいぐるみを制作する前は世界中を巡って現地で出会った人たちの似顔絵を描いていたこと。当初それは旅の目的ではなく、どの会社に勤めても長くは雇ってもらえず、適当にバイトで稼いだお金が100万円貯まったから乗りたかったフェリーに乗って、食べてみたかった北京ダックを中国で食べて、1ヶ月くらい思いきり遊んで100万円を使い切るつもりだったらしいです。

会えるチャンスはないものかと模索する日日はそう長くは続かず割とすぐ会えたんです。下田さんがあるグループ展に参加していて主催者と対談するトークイベントが表参道で開催されるという情報を聞きつけ、それは予約制ではなかったので「絶対に一番前の下田さんの目の前で話を聴きたい!」と思ってイベントスタートの2時間前から最前列に座っていました。目の前に下田さんがいて、なにか喋っているだけで泣きそうだったし、何よりカッコよかった。トークも終わり「それではありがとうございました~」となった瞬間、下田さんはサーっとどこかへ行ってしまい見失ってしまいました。「嗚呼、話を聞けるだけでももちろん有難いのだけれど直接話をしてみたい…!どこだ…!?」と探していたら普通にギャラリーで他の人の作品を観ていて、喉から心臓が飛び出るほど緊張していたのだけれど思い切って話しかけました。

「あの…下田昌克さんですよね?」「うん、そうだよ」「あの、その…好きです、本当に大好きです」と本人を目の前にして見事に語彙が死んでしまい、結果キモいオタクみたいなことしか云えなくて下田さんは失笑していたと思います…(笑)「あの、良かったらサインなんかいただけたらうれしいです」とサインしてもらいたかった本を渡すと、名前だけじゃなくってどんどん絵も描き出して「…!?!?」と窒息しそうになっていると「時間ある?そこに座って?」と促されるまま座ると私の似顔絵もササーっと描き始め「なんなら写真も撮る?」と云いながら写真まで撮ってくれて。本当にいっぱいいっぱいだったけれど「今日は色色とありがとうございました。私も絵描きで、下田さんにたくさん影響を受けてファンレターを書いてきたので時間があったらよければ読んでください」と云って、もう本当「小説ですか?」ってくらいの長い重い内容の手紙を下田さんに渡して握手してもらって帰りました。会いたい人に会えてもう本当に限界的にうれしくて、会場を出た瞬間号泣しました。自分でも引いてしまうくらい、嗚咽するくらい泣いてしまったのでこの日の天気が雨で本当に良かったと思いました。

それから下田さんの展覧会がある度に伺いました。青山のCOMME des GARÇONSにヘナタトゥーを入れて行ったときに「ヘナすごいね~写真撮らせてよ、僕もインドに行ったとき描かれたよ(笑)あれ?前も観に来てくれたよね?」と、そのとき初めて認知してもらえたんだと思います。私が勝手に好きなだけだから覚えてもらえるのはうれしいけれど、そんなんなくてもいい、ただ大好きな人が素敵な作品を作り続けてくれてそれを体感できるほうがよっぽど重要だから。

今月、久しぶりに下田さんの展覧会に向かいました。とても緊張しながら向かいました。在廊しているか知らなかったけれど会場に入るとご本人がいて、他の人と談笑していて私はしれーっと作品を鑑賞していたのだけれどふいに下田さんと目が合った瞬間、下田さんはニヤニヤしながらどんどん近づいてきて「何何…!?どういうこと!?」と困惑している間に抱きしめられ「来てくれてありがとう!心配していたんだよ?」私その瞬間に文字通り泣き崩れてしまって、目の前に下田さんが存在している現実と、個人として覚えてもらえている現状ともうワケが分からなくなってしまって…

話は少し脱線してしまうけれど、目の間に憧れの人がいるっていう事実だけで私は泣いてしまうんです。それが顕著なのがYUKIのライブで。YUKIちゃん大好きなんです私。ライブツアーには絶対毎回参加しているのだけれど、どんなに明るい曲で始まろうがもうYUKIがステージに立って目の前に存在してくれているだけで感極まっちゃうんです。2015年、代々木第一体育館にて行われたYUKI LIVE dance in a circle’15にて事件は起こりました。第一部のバンドセットが終わり第二部へ向けて弦のインストが流れたあと、逆光でYUKIがステージに現れました。着替えた衣装は遠目からでも分かりました、恐竜の衣装が分かったのではなく「これは絶対…必ず…私の大好きな…下田さんが作った恐竜のぬいぐるみの衣装だ!!」と。大好きな人が大好きな人とコラボしている!!私はこの夜の出来事を一生忘れることはできないと思います。何かをあきらめそうになったとき、もうダメかもしれないとき、私は深夜にこのDVDを観ます。この映像に何度も救われてきたから、酔った勢いもあるけれど下田さんにインスタのDMで「あなたの生み出す芸術で生かされています。本当に心に響いて、生きていける活力になっていますありがとうございます」的なことをこれまた長文で送ってしまったんです…そんなことを何度かしてしまったから「この子から深夜にたまにヤバイDMが来るけど果たして大丈夫だろうか…?」と心配をかけてしまったんだろうと思います…(笑)

「彼女ステージ上で結構暴れるじゃない?だから衣装を固定するワイヤーをたくさん付けたんだけど骨の隙間からワイヤーが見えるのは嫌だって云ってNG出されっちゃって…それで必要最低限の固定具だけにしたんだけどこっちとしてはヒヤヒヤだったよ、頭蓋骨がウィッグごと取れちゃうんじゃないかとか(笑)それでも彼女はすごいね、僕が造った作品を一番カッコイイ角度で魅せてくれる。モノの魅せ方っていうのを本当に知ってる人なんだなと思った、素晴らしかった」と裏話も聴かせてくれました。

それから本にサインしてもらっている間しばらく2人きりだったので色んな話をすることができました。めちゃめちゃ影響を受けまくっていることはもちろん、ドキュメンタリーで流れていた音楽は全部ダウンロードして下田さんになりきって描いてることとか、下田さんの行きつけの代々木のカレー屋に何度も行ったこととか…おそらく相当キモかったと思います。でもキモいついでに本人にも「キモいこと云ってもいいですか?」「うん、いいよ」と承諾を得て「下田さんが住んでる家、とても素敵ですね。屋上があって、そこで撮ってインタビュー記事になった写真、PCのデスクトップにしてます」と伝えました。(※これは実際ストーキングしてるわけじゃなくてちゃんとそういうインタビュー記事があるのです…笑)私は高いところが好きで屋上とか展望台とか、街全体が見晴らせるところに行くと安心するんです。自分の悩みなんてなんてちっぽけなことなんだろうって。こんなにたくさん人がいるのになんて小さなことで悩んでるんだろうって、そう思えるから好きなんです。

「クラスにひとりくらいいたでしょ?授業中叫んでしまったり、突然教室を出て行ってしまう子が。僕もねそうだったの。今でこそそれに名前が付いているけれど僕の時代はちょっと頭のおかしい子って目で見られてしまう。友達も嫌いじゃなかったけどひとりになる時間が必要だった。学校の屋上でひとり絵を描いてた。それで屋上がある今の部屋を借りたんだ。内見はしなかった、屋上があるからもうそれだけで即決したの。」尋いてはいません、でも淡淡と話してくれました。私はすごくうれしくなりました「嗚呼、この人も私と同じなにかを抱えているんだな。それでもこんなに素敵なことができるんだなぁ」と思って。

数年前、下田さんから突然インスタで「一緒に絵の仕事やりませんか?」とDMが来たことがあります。それ自体はコロナ禍で流れてしまったんですが「どうして自分のこと知ってるんですか?どうやって探したんですか?」と尋ねると「だって君、初対面でくれた手紙の中にめちゃめちゃ自分の作品入れてくれてたし、ヘナ(タトゥー)も覚えてるし、なんかね、一緒になにかできるなって思ったの。それで結構頑張って探したんだよ?」と云われマジで「今日が寿命ですか…?」状態でした。「その依頼は流れちゃったけどいつか一緒になにかやろうよ、またお願いすると思うからその時はよろしくね」と重ねて云われ、それはもう夢のような時間でした。


あなたの今の「夢」はなんですか?


私は数年前からずっと同じ夢を見続けています。下田さんと一緒に何か作って、一緒に恐竜のぬいぐるみを被って写真撮影することです。夢みたいな出来事にするつもりはありません。夢が少しづつ現実に近づいてきて自分でも戸惑ってしまうときがあるけれど、叶えたいと今は本気でそう想う。その日が来るように描けるときにたくさん絵を描いて生きていきたいと思います。

ありがとう、明日もまたやろう。

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