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品品喫茶譚 第113回『木屋町 深夜喫茶/ホール多聞 凡夜READING CLUB、平日の夜に現れるのこと』

木屋町の喧騒から逃れるように地下へ続く階段を降りると、そこにはいつもの弐拾dB・藤井の顔があった。深夜喫茶/ホール多聞の店長・西條氏からお声がけいただき、我らが凡夜READING CLUBは京都でもはや三回目になるGIG&トークライブを開催することになったのである。
着くや否や早速アイス珈琲をいただき、ぺちゃくちゃ会場準備をする。すでに何もかもが良い感じで、早くも開演が待ち遠しい。くちゃぺちゃと準備を済まし、ミーティングも兼ねて会場から程近い六曜社に向かう。
今日は一階の方に入る。
店は大盛況で相席となる。
横並びで座ったお洒落風の青年二人と机を挟んで向かい合う形で我々も二人横並びでソファに腰をおろす。
知らない若者と向かい合ってとても落ち着かない。前の青年のグッチのスニーカーがチラチラ目に入る。しかしその程度のことで、いい大人が気を散らかしていてもしょうがないと気持ちを切り替え、持参したメモ帳を広げて今日の段取りをつめる。
段々、集中、というか話が乗ってきて、横道にそれる。そして、それたまま、その道を全力で走り出す。
二輪のへたついたタイヤ、我々の進む道はいつも大抵が砂利道、でこぼこ道である。そんな道をえっちらおっちら進みながら、いつもどこかで嘘みたいにきれいな景色を見つけながら生きてきた。なんてほざくと、ちょっとセンチメンタル過多ではあるが、しょうがない。それが私たちの共通項なのだ。
気づけば目の前の青年たちがグッチと書かれた袋を手に立ち上がり、居なくなっておった。
そのタイミングで藤井が思い切って店員さんに切り出す。

「向かい合ってもいいでせうか?」

「どちらでもいいです」

店員さんは続ける。

「向かい合う場合は荷物は入口のほうのスペースに置いていただく形になります」

また次のお客が来たら、そのときに改めて鞄を移動すれば良さそうなのに、とか思いながら、店には店のルールがあるのだし、店に入れば店のルールを遵守してこそ本物の喫茶者である。
結局二人隣り合っていちゃついているみたいな風情で最後まで座っていた。
誰かが隣り合わせて座ったことから、螺旋状に展開される、とにかく二人隣り合わせで座らなければならないという因果の海に溺れながら、いつまでも横にいる藤井とゲラゲラ笑いながら、本番までの時間をブレンド珈琲と共に過ごした。

すでに良い感じの多聞


本番まではステージ奥の喫煙室を控室代わりに、タバコを吸う藤井にとっては好都合、タバコを吸わない私にとっては副流煙の渦の中、そんなこんなでいよいよ本番が始まった。
ステージに上がると結構お客さんが来てくれているのが見えた。
いつも通り数曲、ど緊張の態で歌い、藤井が来てからの一時間半くらい、全く緊張することなく、いつもの凡夜的ぼんやりトークをかまし、挙句、途中で会場のあまりの良い感じさにうっとり眠くなってしまい、無自覚のまま藤井の言葉に対し地蔵になっていたことはあとで何人かにやんわりと注意されたものの、つまりそれだけ阿呆の態でリラックスできる会場というものも非常にありがたく、また次もここでやりてえもんだと藤井と二人言い合った。最近の私たちのトークは走りに走っている。もっと色々な方に聞いてもらいたいものだ。

ライブ終了後はビールを数杯かましながら、藤井の出張弐拾dB営業とともに過ごし、深夜一時に閉店。西條店長と藤井と三人で、到底平日とは思えない底が悪いほうに抜けた嫌なテンションで空間が侵食された大衆居酒屋で三人しっぽり打ち上げた。
散会の頃にはもう深夜三時くらいになっており、もはや朝と夜の間に放り投げ出されたような気持ちになったけども、考えてみれば、私以外の二人は、片方は深夜喫茶、片方は深夜の古本屋といつもこんな夜を生きているわけだ。私も二人みたいに深夜のフォークシンガーなどと嘯いて、深夜の馬鹿力でも出して、踏ん張ってみたいところだったけども、自室に帰り着くや否やソファで寝落ちする愚をやはり犯すのだった。
せーの。
やっぱり楽しい時間をありがとう。

笑い合う藤井氏と著者 多聞にて

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