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品品喫茶譚 第97回『仙台 エルベ 道玄坂再訪 銀杏BOYZと友部正人の夜』

先日、仙台に銀杏BOYZと友部正人さんのライブを観に行った。
日光の実家がなくなってから、大学生くらいの頃、つまり己が実際にステージに立つまでに夢中になった音楽が急に自分に帰ってきた。帰ってきた、というのは、もちろん彼らの音楽はいつも自分の中心にあるのだけども、改めて向き合いたい、観たい、何かを感じたい、と思ったのである。
一、二年前、両親と昔から家族に縁のある定義山を訪れた際に帰りに仙台で喫茶店数店舗に寄った以来。
いま新しい実家のある宇都宮からは新幹線で一時間くらい。
まずは「エルベ」を再訪する。
以前、訪れた際は、純喫茶巡りに両親が付き合ってくれ、三人でゲーム機のテーブルで茶をしばいた。
今回は昼に着いたこともあり、昼餉をかまそうと思った。塩味スパゲッティ。混んでいたこともあり、カウンターに座る。各々みんな、ナポリタンやなんやを食っている。塩味スパゲッティを探す私の目は怪しい。ボードに定番みたいなことが書かれていたが本当だろうか、誰も食べていないようだが、ああ不安、ただ漠然とした不安! などとただ腹が減っている自分を棚に上げていると、塩味スパゲッティが運ばれてきた。
うまそ!
てかうま!
うま!
うんま!
と、数分で平らげ、暑いし、もうアイス珈琲だよねと、アイス珈琲をきめる。

店を出て、街を歩きながら宿に向かう。
塩対応気味のフロントから鍵をもらい、またすぐに街に出る。
あてもなく歩きながら、以前訪れた「道玄坂」という喫茶店に出会う。
前回と同じ、入口近くの席に座り、馬鹿の顔でノートPCなどひらき、仕事をする。
五分でやめる。
奥の席で一心不乱に漫画を読む大学生を見ていたら恥ずかしくなってしまったのである。
開場の時間になり、仙台レンサへ向かう。会場の七階まで階段に長蛇の列ができている。整理番号671。久しぶりに人の沢山いるライブに来た。壁に貼られた整理番号を目安に並んでいる人に番号をきいていく。
私の前はおかっぱの青年だった。
いつかの私だ。そう思った。
スマホの電波も届かない時間が過ぎていく。ふと青年が居心地悪そうに眼鏡をかけた。私がかけている丸眼鏡の三分の一サイズの丸眼鏡だった。
私が並んだあと、青年と私の間に女性がひとり並んでいた。奇しくも、もっさりした丸眼鏡に挟まれてしまった彼女の気持ちは私たちには永遠に分からない。

フロアに入る。奥の割と前の方に陣取った。昔から銀杏BOYZのライブでは後ろの壁にもたれかかりモッシュを避けてきたが、今日は弾き語りだし、前で観たかった。暗転し、峯田氏が登場。
友部正人さんを呼び込む。峯田ー、ミネター、昔から変わらない峯田コールが嬉しくも恥ずかしい。友部正人さんがぼそぼそ喋り始め、ライブが始まる。数曲歌い、このあとの峯田君の物語は長いですよ、と言った。歌が終わる。素晴らしい演奏だった。
飲み終えた発泡酒の空き缶をポシェットにしまう。暗転し、銀杏BOYZがステージにあがる。恍惚と確認と飛躍の二時間半だった。少し大袈裟だけど、弾き語りの、音楽の可能性を再確認した夜だった。少し泣いた。
帰りに友部正人さんの物販で奥さんのユミさんと話す。私が献本と称して送りつけた「都会なんて夢ばかり」を読んでくれたらしい。読んでから捨てようと思ってたけど、本棚にさした、みたいなことをユミさんが言った。嬉しかった。
音楽は自分が必要なときにそこにあって、いつでも手に取れるようになっている。でも、それは当たり前のことではなく、歌い手が、作り手が、いつでもそこで手に取れるように活動し続けてくれているからこその話なのだ。だから私も作り続けなくては、と思ったりする。
歌い続けなくてはならない。歌い続けたい。
どこかの誰かが必要にしたときに、いつでも手に取れるように。

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