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品品喫茶譚 第106回『神戸 元町ボ・タンバリンカフェ 前篇』

8月24日土曜日。花森書林での独演会以来一か月ぶりの神戸。
夜に元町ボ・タンバリンカフェで催される友部正人×豊田道倫を観に来た。
京都から新快速に乗り、三宮で降りる。いつもならばここで乗り換え、たった一駅の元町まで電車で行くのだけども、今回は三宮を少し歩こうと思った。ライブの開場時間までに数時間あるし、締め切りの近い原稿もある。毎週土曜日21時更新の喫茶譚も書かねばならぬ(喫茶譚はいつも更新日当日に書いている)。つまるところ、三宮から元町の間で喫茶店を見つけ、そこでノートパソコンをぽちつかせようと思った。
しかし私は土曜日の三宮を舐めていた。ガン混み。分けわからんショップに長蛇の列。おまけにいかに折り返したと言ってもまだまだえぐい酷暑。アーケードの入り口では、飲んだらすぐに馬鹿になりそうなエナジードリンクを無料で配っている。とはいえ、パラソルの下、溌溂とした青年たちが配るそれはいかにも冷えていそう。飲み干してえ、という衝動に抗いながら、阿呆の顔で素通りする。アーケード内も人の坩堝だ。結局、自販機で分けわからんメーカーの麦茶を購い、のそのそと三宮方面へと歩を進める。結局、何処の店にも入れずに元町に着いてしまった。ちなみに最近、元町で私がフェイバリットにしている喫茶店「ファイン」は土日休業であった。
おまけに元町ではよく分からない政党が延々街頭演説をしている。彼らのたまに混じる高圧的で押しつけがましいかんじが街の暑さと相性抜群で、ずんずん体力を削っていく。
やっとの思いでホテルに入る。
あ、え? ホテル? と思った方もいるかもしれないが、実は私はこの日宿を取っていたのである。用意周到。無駄と言えば無駄。だが私はゆっくりしたかった。元々、原稿もホテルでできればいいやという大甘な気持ちで街を歩いていたのである。こんな奴に奇跡的な喫茶店との邂逅があるわけがない。
冷房をかけ、リュックをおろし、30分ほど仮眠することにした。体力がなくなっている。もちろん開場までになにがしかの文章を書いておきたいが、眠気には抗えない。外ではいまも演説の声がしているが、大丈夫。数秒で落ちる。
気付くと、あと30分ほどで開場の時間になっていた。当然、寝る前にセットしていたアラームは、寝ぼけ眼の無意識で一時間後にセットしなおしてあり、さらにそれも無視した結果、部屋を出る時間ギリギリに目を覚ますこととなった。結局、書く時間は20分くらいしかなくなってしまった。良いのか悪いのか、その20分でひーひー何とか喫茶譚の文章(前回のです…)を書き、会場へ向かう。
前もって入念にチェックし、会場に異常に近いホテルを予約していたため、5分とかからなかった。
入口で数人の知り合いと会い、ぺちゃくちゃとだべりながら入場し、席に座ってもなおくちゃぺちゃだべっているうちに開演の時間が来た。
最初は豊田さん。最初こそ何となく場に戸惑っているようなかんじがしたが、中盤からぐんぐん乗ってきた気がした。良いライブだった。私は豊田さんのMCも軽やかで好きである。
次に友部さん。非常に調子が良く、乗りに乗ったライブだった。最後に客の一人が「一本道!」みたいなリクエストをしていた。本当によく見る光景だ。御本人からしてもきっと耳にタコすぎるだろうし、いつもあんなかんじで一本道を要求されるの嫌だろうなあ、と思ったが、キレキレの友部さんは「ボ・タンバリンカフェだし、やろうか」みたいなかんじで軽やかに歌っておられた。流石だと思った。
お二人とも本当に多作だ。私は多作の歌手にこそより惹かれる。
手に持っていたビールは段々ぬるくなっていく。斜向かいのマンションのベランダからなぜか水が落ちてきた。ステージの後ろは大きなガラス張りで路地に面している。そこに猫が一匹いて、すぐいなくなった。歌だと思った。

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