品品喫茶譚 第99回『栃木 宇都宮 パーラー&喫茶BC 宇都宮パルコの、残骸』
翌日、弘前を去る前に中三というデパートの地下にある中みそに寄ろうと思った。
シソンヌじろう氏の本によると中みそは弘前市民のソウルフードのラーメンなのだそうで、これは是非食うてみたいと思うた。
10時の開店に合わせ、入り口前に陣取る。初めて訪れた街のデパートに開店から並ぶのはちょっとどうなのかとも思ったが、スケジューリングの都合上、どうしようもない。私の他には老婆がひとり。無言で待つ。扉があく。いらっしゃいませの嵐が吹く。地下へ続く階段を降りる。
地下は主にフードコートと食品売り場だ。食品売り場をうろうろすること数分、ようやくフードコートを見つけた。
中みそは11時開店であった。
途方に暮れ、またしばし食品売り場をうろつく。一体こいつはなんなのか、と店員さんが怖くなり始めた頃、ようやく頃合いかと思い、中みそへ向かう。なんと、結構並んでいる。これでこそソウルフード。中みそはつまり味噌ラーメンである。ニンニク強めの濃ゆい塩味が、食品売り場をうろついて疲れた身体にうまかった。瞬く間に完食し、さらに土産物売り場で自宅で作れる中みそラーメンを二セット購う。これから宇都宮の実家に行くので、親父に食わせたいと思ったのだ。
昼過ぎの電車で弘前をあとにする。
何やかんや、宇都宮に着いたのは夕刻になってからだった。駅前のブラジルコーヒーに寄って、原稿仕事をしようと思った。旅に浮かれてばかりいてはしょうがない。しかし宇都宮にいることもまた旅の途中である。もう何が何だか分からない。とにかくやらなきゃならないことをやるだけさ。だからうまくいくんだよ。byアイデン&ティティだよ。どんな気持ちだい。誰にも気にされないってことは、転がる石のようなことは。って感じで、窓際の席に陣取り、アイス珈琲(今年は本当に暑いですわね)というクールな相棒とともに奮闘した。
ここは昔から気になっていた喫茶店だったのだが、栃木は完全な車社会であり、私の家族は日光に住んでいたので、宇都宮駅前をゆっくり歩く時間など全くなかった。おまけに根も葉もない、かどうか知らないが、駅前にはバイニンがいるから危ない、みたいな話を幼い頃に誰かから刷り込まれていたこともあり、ずっと宇都宮駅前がおっかなかった。いまとなってはあんまそんなことはなさそうな感じがする。たぶん大丈夫そう。新鮮な気持ちで宇都宮を楽しみたい。
往来を眺めながら文章をものす。自分の学力では手の届かなかった高校の制服や滑り止めとかいって受けさせられた私立の制服を着た高校生たちがわんさか通る。カップルもいる。楽しそうだ。私は高校生活が淡過ぎて、いまだに思い出す。思い出してばかりいる。浮ついた話のひとつもなかったのに。
黄昏がやってきて店を出た。歩いて帰ろうと思った。途中には宇都宮パルコ跡もある。憧れや焦燥。届かなかった、届かせようと頑張ることもしなかった怠惰で生温い青春の象徴。友達と一回だけ行ったデパート。マリオンクレープ。タワレコ。ワールドワイドラブ。片思いの女の子の行きつけだった店。更地にでもなってくれていればまだいいのに、なぜかずっと空きビルのまま、そのままの姿でそこにある。
靴擦れしてきた。スマホの万歩計を見ると、昨日と合わせて、すでに3万歩以上歩いている。実家に着く頃には真っ暗になっているだろう。
遠くのほうに最近できたばかりのスタバの灯りが馬鹿のように光っているのが見えた。