品品喫茶譚 第65回『東京 銀座 映える歩行者天国を』
雨の古書ビビビ独演会の明くる日は快晴だった。
疫病の時代になって以来、久々に東京に出てくるという両親と銀座で待ち合わせる。
大学生の頃から待ち合わせといえば銀座だった。ことに母親はウインドウショッピング、いわゆる銀ブラというやつが好きで、もちろん特にハイソな買い物をする訳ではないが、当地の店でしか買えない魚の粕漬けを購ったりする。今から大分前のことだが、私の恋人が銀座奥野ビルで東京で初めての個展を催した際には足を運んでくれたこともあった。
銀座駅の地下を多少迷いながら松屋に出る。
一階の入口のところにいつもと同じような顔をして二人がいた。
この日は恋人と一緒に両親をもてなそうと、色々お店を調べ、普段より少しだけ良いレストランでランチをした。
まるで人の坩堝、歩行者天国っていうか地獄、まさに人と人とが折り重なるかのように縦横無尽に行き来する銀座の街をいく。
この街には「ウエスト」という私たちがベストフェイバリットに思っている喫茶店がある。ここに二人を連れていこうと思った。
私はこの街のビルで催されていたコピーライター講座に通っていたことがあるので、多少の懐かしさもある。最近では「ルパン」というバーに何度か足を運んだりもしている。太宰や安吾や織田作の通っていたバーである。
途中、ジョン・レノン夫妻が通っていたカフェ・パウリスタという喫茶店に寄ろうか、みたいな話にもなったが、私たちはウエストを目指す。遠巻きに列ができているのが見えた。とはいえ、数人だ。少し待てば入れるだろう。と思ったら、一度店内で受付し、整理番号をもらうシステムになっているようだ。という訳で、実際に並んでいる数よりもはるかに多い人々が並んでいるのだった。
私たちは並んだ。両親が疲れてしまわないか心配ではあったし、なかなかの時間待たされたが、四人でなんとなしに雑談したり、しなかったりしているうちに大体一時間強くらいで入ることができた。
見せかけの列を見て、整理番号を取らず、そのまま列に並んでしまい、しばらく並んだあと、説明を受けて帰る人たちもいた。すごく悲しい顔をしていた。
真っ白な店内の入ってすぐ横のテーブルに座る。店員さんがケーキを持ってきてくださる。優雅な時間だ。色々な話をした。目を逸らしてはならない、大切な話も沢山あった。いつもへらふらいい加減にやっているだけじゃだめだよ。しっかりするのだよ。と、何度も自分に言い聞かせた。
あっという間に、夕刻になる。銀座の歩行者天国は嫌でも映えてしまう。インスタに載せるであろう写真を撮る人たちの横を通って駅に向かう。鏡みたいに光るビルに反射した西日が、観光客のサングラスを経由して、私の目に届いた。
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