品品喫茶譚 第72回『東京 新宿 ピラフトライアングル』
待ち合わせより二時間ほど早めに宿を出て、新宿に向かう。京王線と小田急線辺りの地下で迷う。うろうろし、階段を登って降りて結局登る。私は地上に用がある。
ピースに入る。店員さんにも街にも特段馴染みがないのに、帰ってきた感じがするから不思議だ。
アイス珈琲を注文する。外は暑い。暑すぎる。とはいえ皆さんまんべんなく暑いのだし、ブーブー文句を言ってもしょうがない。黙って珈琲を飲め。
黙って珈琲を飲む。待ち合わせは昼過ぎにタイムスである。ということは、今日はらんぶるにも寄りたい。なぜなら、ピース、らんぶる、タイムスというのが、私のピラフトライアングルなのであり、まあ今日はタイミング的にピラフは頼めないけれども、この三店に行く場合は大概ピラフを頼みたい。私はこの三店のピラフを愛する。
それは中学生のころ、部活帰りに親がチンしてくれたエビピラフを想起させるからであり、また初めて一人暮らしをした学生寮の、華々しさとは程遠い無人の食堂でひとりぼっちチンしたエビピラフを想起させるからだ。
らんぶるに入る。アイス珈琲を頼む。店内は冷房で天国、地下に潜ったところにある天国。なのに地上の暑さがまだ身体にへばりついていて暑い。なんて、まだ言っているのか、みんな暑いんだからプープー文句を言ってもしょうがない。黙って珈琲を飲みや。
黙って珈琲を飲む。あっという間に待ち合わせの時間になる。喫茶店から喫茶店に移動するなんて、なんて優雅な時間だろう。
店に入るこだま君の姿が見えた。早足で店に向かう。アイス珈琲を頼む。黙って珈琲を飲む、わけにはいかない。こだま君とゆっくり話すのは初めてのことだ。楽しかった。二杯アイス珈琲を決めた。ということは数時間の間に四杯飲んだ計算になる。流石にカフェインの取り過ぎだろうか。いや取り過ぎではない。
音楽をつきつめていくと大変なことも沢山あろうが、ごくまれにやっていて良かったなあ、ひいては生きていて良かったなあ、ああ最高みたいに感じる夜もある。自分の歌は、自分がいなかったら生まれなかった。だからみんな続けるのだろう。と、思考が少し先走ってしまったけれども、そういうこちゃこちゃしたことは置いておいて、人と茶をしばくのはとても楽しい。喫茶店で会ってくれて本当にありがとう。