品品喫茶譚 第107回『神戸 元町 はた珈琲店 アルファ 後篇』
翌朝も神戸は晴れておった。
早速どこかでモーニングをきめるため、アーケードをうろつく。日曜ということもあり、サントスやエビアンは混んでいた。
そんなとき、ふと三月に本の栞でイベントに出た際に、弐拾dB藤井がよく行くと言っていた「はた珈琲店」を思い出した。店は三宮、元町とひたすら続くアーケードの、やや端っこに近づいたほうにあった。入ると、私の他にはお客がひとり。カウンターに座り、アイス珈琲とトーストを頼む。カウンターだと、目の前にマスターがいたりして緊張してしまうものだが、ここはそんな心配は一切なく、ゆっくりとトーストにかじりつき、アイス珈琲を飲むことができた。あとからどんどんお客が入ってくる。夫婦で入店したおっさんが店の方に質問する。
「これはなんですかあ」
「これは苦味の強い珈琲で」
「苦味〜。んんじゃ、これはあ」
「これは酸味が強い珈琲で」
「え〜俺、酸味が強くないほうがいい〜」
「では、こちらはどうでしょうか」
丁寧な対応をされていた。
いい店だった。
三月のときは生憎お休みで入れなかったが、次は藤井とも来たい。
はた珈琲店を出て、さらに先に進むと「アルファ」という喫茶店を見つけた。アルとファの間にウルトラエースみたいなAが入っている。
「アルAファ」。
入るしかない。
自動ドアが開く。店内は結構広く、店のそこここで近所に住んでるっぽいじいさんやばあさんが談笑している。壁面には味のある絵画がたくさんかけてあり、それらは神戸の街の風景だったりして、旅情を高めてくれる。片桐はいりのサインもあり、やはりここを選んだ自分の目に間違いはなかった。
モーニングを注文する。
喫茶店のはしごの良いところはこういうところだ。喫茶店のモーニングは主にトーストにゆで卵くらいのライトなものが多いため、その店によっての違いを楽しめるつうわけである。
トーストをかじる。アイス珈琲をちゅうちゅう飲む。ゆで卵は私の好物であるので、最後に食する。かなりゆったりできる店だ。文庫本をかなりがっつり読めた。このとき私は島田荘司の小説を読んでいたが、はっきり言って犯人まであと数ページのところまで行った。あえてそこでやめたのである。これは次の喫茶店に行く理由づくりでもある。
会計を済ませて出ようとすると、自動ドアが反応しない。またか、と思った。昔、東京に住んでいた頃によく行っていたカラオケ館三軒茶屋店のドアがそうだったのである。出るときは大丈夫なのだが、入る時に反応しない。なんかこうちょっと恐る恐るドアに触ると開いたりして、そのたびに私は自分の存在というものに不安を持った。死ぬほど独りカラオケした店だ。ある意味懐かしかった。
「もう一歩前や」
店のおばあさんが小便器の上の張り紙みたいなことを言った。
ドアが開いた。
無事、店を出て、ファインを目指す。ここニ、三回のことではあるが、私は元町に来たらファイン、というルーティーンなのだ。
さあ犯人は誰なのだろうと、わくわくしながら、いつもの階段を降りると、ファインは休みであった。
結局、京都への帰途、新快速のなかで、最後まで読んだ。犯人の予想は外れていた。
電車で読む本も良いものだ。