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品品喫茶譚 第98回『青森 弘前ルビアン 土手町ストリート』

昼前に仙台駅を出て、足は実家のある南ではなく、北へ向かう。
弘前へ行こうと急に思い立ったのである。
思い立ったからといってすぐにふらふらと、ほへー北へ向かおう、向かっちゃおうー、あはは楽しー。なんてことが簡単に許されるはずがない。
はずがないのだが、今回の私のスケジューリングでは可能だったのである。
こんなタイミングでもなければ、今後しばらく行けない気がする。
私はほへー、弘前に向かおう、弘前に向かっちゃおうー、あはは楽しー。と新幹線と特急を乗り継ぐこと一時間半くらい。弘前駅に降り立った。駅を出ると、ロータリーのところに「HIROSAKI」という結構大きなオブジェが飾られていた。これは昨日、仙台駅でも見た。当然そちらは「SENDAI」だったわけだが、浮かれていた私はそれを写メし、SNSに挙げていたのである。つまり弘前でもこのオブジェを写メし、いっちょ挙げたろかい!と意気込んで、オブジェに向かって、のさくさ歩を進める。
するやいなや、うしろからきた老婦人の皆さんが、ものすごいスピードでオブジェに到達、阿吽の呼吸、暗黙の了解で、二、三人が素早くポーズをとる、撮影班がスマホをかまえる、というムーブをされた。私はそっと自分の歩行の角度を修正し、オブジェを華麗に素通りするとその先にある地下歩道へ吸い込まれていった。

しばらく街を歩き、やがて弘前のメインストリートなのか、土手町という辺りに来た。急遽取った宿もこのストリート沿い。まず荷物を置き、さらに土手町を歩く。ラジオブースのある建物から一本路地を折れ、まわりみち文庫へ。私の本を取り扱って下さった書店さんである。シソンヌじろう『シソンヌじろうの自分探し』を購う。さらに路地をいく。

純喫茶ルビアン。
十年以上前、前野健太パイセンが発売したライブDVDに唯一収録された「ルビアン」はここをモチーフに作られている。曲を聴いてから、いつか訪れてみたいと思っていた喫茶店である。ついにその日が来た。入ると、ちょうどお客の誰もいない凪の時間。料理のメニューも豊富で、何より内装が素敵だった。本来であれば、何か食べながらゆっくりするべきところ、新幹線の車内にてドカ食いした菓子パン、惣菜パンが重いボデーブローとなり、レバーを打つ打つ打つ。
結局、いつものパタンとなり、アイス珈琲を啜る。夏みたいな日で嬉しかった。
じろうさんの本はまさに土手町辺りで読むべき本であった。そこは彼の地元であり、本の中にはいまはもうなくなってしまったお店やストリートでの思い出、家族への追憶が散りばめられている。読みながら街を歩く。
いま自分がいる場所と街が結びついていく。全然知らない街がものすごいスピードで、懐かしさを帯びていく。
得難い読書をさせてもらった。本当に買ってよかった。
なのに、夕食をびっくりドンキーで済ませた私は馬鹿の野暮者。

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