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自分のことがちょっと好きになる街、世田谷 〈インタビュー no.5〉

姉妹サイト「せたがやンソン」のライティングも担当していただいたライターの詩乃さん。今から2年前にお部屋さがしをご依頼いただき、今年人生で初めてお部屋の更新をしたという嬉しいお知らせを届けてくれました。世田谷を暮らし尽くす、そのライフスタイルについてお話をうかがいました。

ひとり暮らし|桜新町|30㎡
訪れた人|〈せたがやクラソン〉やました

一度離れて戻ってきた世田谷 

ヤスクーカのコーヒーを用意してくださっていました、ごちそうさまです!

やました:いただきます。

詩乃さん:はい。「ヤスクーカ」のサマーブレンドっていう新しい夏のコーヒーらしいですよ。

やました:うまい!さっぱりしてて美味しいですね。よく行かれるんですか?

詩乃さん:2週間に1度ぐらいかな。

やました:そうなんですね。

詩乃さん:私、世田谷を1回離れて戻ってきてるんですけど、戻ってくるにあたって世田谷のどこに住むかっていうのが、やっぱり考えどころだったんですよね。広いじゃないですか。世田谷と定義しても。

やました:そうですよね。ここのお部屋の前は世田谷区外でしたけど、元々は上町に住んでいたんですよね?

詩乃さん:そう上町。1回目が世田谷2丁目で、次に引っ越したのは桜1丁目でした。この辺りが好きだったのもあるけど、住んでた時に1番どこに行ってたかって聞かれたら「アンジェリーナ(カフェアンジェリーナ)」で。だから、そのそばに住みたかったんですよね。普通、家を探すときって最寄り駅から何分くらいって見ると思うんですけど、私の場合は「アンジェリーナ」からの徒歩時間を見て物件を漁っていました。世田谷駅とかじゃなくて、お店の場所にピンを打って、そこからの距離で地図を見るっていう。笑

やました:世田谷で暮らすきっかけとしては友達におすすめされたとか。

詩乃さん:そうですね。松陰神社前に住んでる知り合いがいて、「世田谷線沿線、たぶん好きだと思うから見においでよ」って言ってくれて。その時に「バーボン(上町の洋食店)」と「アンジェリーナ」を案内してくれたんです。まあ、今となっては、その人よりいる感じですけれど。笑
私は大切な人が来たら必ず寄ってもらって送り出してるんですよ。わざわざ北海道から友達連れてきて、「アンジェリーナ」に呼びましたもん。北海道から大都会東京に来たのに、渋谷とか新宿に連れて行かずに。笑

やました:そこまでの「アンジェリーナ」の魅力って何なんですかね?

詩乃さん:お店としての居心地の良さももちろんあるんですけど、その居心地の良さの定義は、個人的に“距離感”だと思ってます。たとえば、いつも同じ席に座るのに毎回「お好きなとこどうぞ 」って言ってくれるし、お会計とかまで普通なんだけど、帰る時にちょっとだけ「いつもありがとうございます」って言ってくれる。普通、常連になればなるほど距離感って勝手に近づいてしまうものですけど、それをちゃんと保ってくれる場所だからすごい好き。

やました:ちょうどいい距離感なんですね。ちなみにいつも何頼むんですか?

詩乃さん:バナナケーキとブレンド。毎回バナナケーキのカットの角度が違かったりして。そういうのが自分の価値観にとても刺さるんですよ。チェーン店でケーキのサイズが毎回全然違う、とかってなかなかないじゃないですか。日によって、時間によって、そういう揺らぎがあるっていいな~と。

やました:揺らぎ。いいなぁ、良いエピソード聞いた。


暮らしを”価値観”で探す

詩乃さん:この家を見つける過程の中で、すごく印象的で「これがクラソンなんだな」って思って好きだったことがあって。
最初に問い合わせをした上町の物件を見た時に、「ここは違う」ってお互いに感じていたじゃないですか。私も違うなと思ったし、やましたさんも違うなって思ってただろうし。

やました:うん、そうですね。

詩乃さん:「もうちょっと探しましょう」ってなって、その日は別れたんですけど、そこからしばらくやましたさんが考えるターンに入ったんですよね。それで、私もカジュアルな気持ちで「その後、どうです?」みたいな感じで連絡を取ったんですけど、やましたさんの返し、秀逸だったんですよ。

やました:え、僕なんて返しました?

詩乃さん:「詩乃さんに合う部屋を探したいって思ったんだけど、現状いい部屋がなくてまだ見つかってないから、もうちょっと考えさせてもらっていいですか?」って。

やました:おお。笑

詩乃さん:極論、不動産屋さんの仕事って、相手の合う合わないに関わらず、条件に合わせて部屋を探してそれとなく提案したっていいわけじゃないですか。でも、やましたさんは違った。私の好みに当てはまりそうな部屋をマジで探しにかかってくれてるんだろうなっていうのをすごい感じました。
そういうのが、熱烈に感動したポイントでしたって話を、今日忘れずに伝えなきゃって思って決めてました。笑

やました:ありがとうございます。笑
僕以外のスタッフもそうですね。やっぱり住んだ後に良い暮らしを送れるかどうかが基準だっていうのは、みんな共通して持ってるところで。やっぱり仲介して「はい、終わり」じゃなくて、その後に長く住めるかどうかっていうのも探すときは考えるポイントだと思うんですよね。ただ無いですねっていうのは簡単ですけど。じゃあちょっと一番優先するところを一緒に考えましょうか。みたいなお話はさせてもらってます。

詩乃さん:大事ですよね。

やました:その辺の共有がうまくできてたのかもしれないですね。イメージというか。ここは違うなとか。

詩乃さん:たしか、やましたさんには「古さの中にある温かみが好きなんですね」って言ってもらった気がするんですけれど。

やました:はいはい。

詩乃さん:それ聞いたとき、「言語化やばい!」と思って。笑 たまたま私の持ってた価値観と、やましたさんの持ってる価値観が近いものだったのか、あるいはたくさんの方を見てきたから、好みを把握する力が長けていたのか。それはわからないですけれど、兎にも角にも、その共通認識をすり合わせられるまでの時間があまりに早かったからびっくりして。
それまで、 ”価値観で部屋を探す” っていう体験をしたことがなかったから、理解してもらえたことが嬉しかったんですよね。フローリングの色合いとか、木材の幅とかそういうことをうるさく言うと「何の話?」ってなる人も不動産業界の方ですらいらっしゃると思うけれど、そうじゃないのがクラソンのスタイルなんだろうなって。

やました:すごく良い言葉ですね。価値観で探すっていう。

詩乃さん:どんな暮らしを願っているのか、で探す感じがしますよね。


言語化して見えてきた、自分が本当に大切にしたいこと

やました:お気に入りのお店とかあります?

詩乃さん:せたがやンソンで取材させてもらったので「きさらぎ亭」は行っちゃいますね。美味しいです。取材した人間の顔せず、もうお客さんとして行っちゃってます。茜さん(きさらぎ亭の店主さん)、気づいてるかな。笑

やました:ライターさんって言っても、色々な分野がありますよね。元々ライフスタイル関係に興味があったというか、そういった方面のライターさんになりたかったんですか?

詩乃さん:なりたかった。Webのライター業界ってすごく新しい業界で、その道筋を作ってくれていた先駆者と呼ばれる方々も20~30歳くらいしか変わらない世代なんです。そういう方々って自分の暮らしのあり方をエッセイとして発信したり、雑誌で寄稿するスタイルの方が多いので、自ずと憧れるのはそっち側だったんですけれど、Webライターって当時は飽和している頃だったから、生き残るだけでもそこそこ大変だったんですよね。憧れる仕事がそういただける感じではなかった。だから、自分が「書ける」っていう一定の認知を得るまでは他のジャンルでやって、その後にこっちに戻ってくるじゃないですけど、今やってるようなお仕事の方にシフトできたらいいなって思って。

やました:俯瞰的というか、賢いですね。

詩乃さん:文章で生きたかったんです。片手間とかじゃなくて文章で生きたかった。なので、どうあれしがみつく方法を考えなければならなかったって感じですね。やるしかなかったんで、やるか!みたいな感じでした。結果として今生きてるのは、人の運と縁なんで、私の力ではもはやないんですけど。

やました:素晴らしいですね。冷静に自分のことを客観視して、努力を積み重ねてきて、今の自分があるというか。インテリアを見ていても、「なるほど!」って思いました。

このリンゴ箱たちは徐々に集めたのだそう

詩乃さん:ほんとですか。実は最近言語化できてきて、新しくて綺麗なものに対して何もときめきがしない人間なんだなと気づいたんですよね。私、部屋のインテリアを見てて好きだなって思うのが、江戸時代の末期らしい。

やました:へぇ〜!ちょっと検索してみようかな、江戸時代の末期。

詩乃さん:日本家屋が元々持ってるとんでもない重たさと、西洋のインテリアにある軽やかさみたいなものの、調和がすごく取れてるその時代にあまりにときめいてる。でも、それを再現することは難しいので、せめてそのトーンの重さとか野暮ったさみたいなものはなるべく出していきたくて、物は収集しています。自分の理想とするインテリアとか心地の良さみたいなものを考えていくと、自然と色合いがこうなっていった感じです。今はだいぶ理想には近づいてきました。

やました:統一感ありますもんね。

詩乃さん:出てきましたね、やっと。まだまだだな〜って思いますけど。
本当にもう終わりがないんですよ。

やました:一緒にお部屋を探しているとき、木目の好みの感じだったり、多分和室なんかも良いって言ってくれるだろうなとか、自分なりに想像はしていたんですけど。

詩乃さん:昔のインテリアを見返すと本当ガチャガチャでしたね。今みたいにこう暮らしたいとか、どんなものが自分の目に入ると居心地が良いかとか考えたこともなかった。でもコロナ禍で家にいる時間が増えて、自分の家との向き合い方がすごい変わって。本当にここ3年くらいで一気に変わったなと思ってます。

詩乃さんは燭台マニア…!ボロ市で手に入れた物もあるのだそう


やました:
そのテーブルも買ったものですか?

詩乃さん:そうです、そうです。荻窪にある古家具を取り扱ってるお店がオリジナルで作ってるテーブルだったんですけど、天板も古材を使ってて、様子が古いなと思って気に入って。テーブル選びはめちゃくちゃ悩みましたね。

やました:お部屋にも馴染んでて、良いですよね。

詩乃さん:本当良いです。一人暮らし始めて一番最初に買ったテーブルなんですけど、当時から全然変わらず良い雰囲気だなって思っていて。これはいい買い物でした。大型家具の話でいうと、以前はunicoの大きいカップボードがあったんですが、1年前「合わないな、綺麗すぎる」って思って友人に譲っちゃいました。

はじめての一人暮らしから現在まで大切に愛用されているデスク

やました:ここに来るまでに色々な変遷があったんですね。
最近だと床の色とか質感とかって賃貸でもできるDIYで割と変えられたりするじゃないですか。一部が変わっただけでめちゃくちゃ良い感じになるし、こういう住まい方もあるんだな、みたいな。お部屋の周辺環境だったり、日当たりとか窓の大きさとか、そういった部分は変えられないけど、その他の部分ってある程度変えられるんだなっていう。

詩乃さん:その余地はありますね。ポテンシャル採用みたいな枠があるかもしれない。部屋として大枠の条件が合っていたら、室内はこういう工夫ができてとかっていうのは全然ある気がします。

やました:そうですよね。それこそ和室を嫌がる方もいますけど、ラグ敷いて、ペンダントライトとかに付け変えれば、それだけで結構良い空間になるとかもありますしね。

詩乃さん:人によっては部屋のライトを変えるって考えもしない人もいると思う。床を変えるとかって、調べれば色々な方法が出てくるけど、そもそもそのアイディアがないと調べないから。クラソンには、そういう可能性を相談できる存在にもすごくなってほしいですね。

部屋の細部にも滲み出る、詩乃さんらしさを感じました


世田谷区、ラブみが強い

詩乃さん:プライベートにしても仕事にしてもいろんなことを同時にやるタイプなんですよ。今ちょうど増えてる時期で、テニスやって、筋トレやって、キックボクシングやって吹奏楽やっているんですけど。

やました:すごい、めちゃめちゃ多いですね!

詩乃さん:そうですね。今一気に広げてるんですけど、多分ずっとは続かなくて。その中でこれは趣味として長く続けたいなーって思うものだけに減らしていくフェーズがきっとある。自分の生き方をバッて広げて、バッて進めて、違った!と思ったものから減らしてくみたいな感じなので。
部屋もそうだし、仕事の作り方も多分そう。1回全部トライしてみて、合ってた!違った!みたいなのを繰り返すことで、だんだん洗練されているような感覚があります。

やました:すごいなぁ。ずっと挑戦しているんですね。吹奏楽、ちなみに楽器は何をやってるんですか?

詩乃さん:めっちゃマイナーな楽器なんですけど、ファゴット。ご存知ですか?

やました:ファゴット!知ってますよ!いや、僕も吹奏楽やってたんで。

詩乃さん:え!ちなみに何でした?

やました:ホルン。

詩乃さん:いいな〜。ヒエラルキー高い!笑

やました:吹奏楽は通ってるってことですよね?

詩乃さん:世田谷区民吹奏楽団に籍があります。

やました:すごい!ファゴットは昔からやられてたんですか?

詩乃さん:小中高吹奏楽部なんですけど、高校でファゴットを始めて。調べたら木管低音の中でもファゴットにハマっちゃって。高校卒業したタイミングでファゴットを買って、未だに大切にしています。組み立てましょうか?

大切にしているファゴットを見せていただきました!

やました:いいんですか!ありがとうございます。ファゴット結構大きいですね!楽団には結構いろんな年代の方がいる感じですか?

詩乃さん:そうですね。学生さんから60代か70代の方までいらっしゃるんで。めっちゃ楽しいんですよ!やみつきになります。社会人になってなかなか人と吹ける機会ってないじゃないですか。本当に楽しいです。私かなり世田谷区を便利に使ってる人間だと思います。豊富じゃないですか?世田谷ってそういうもの。

やました:生涯学習的なね。

詩乃さん:例えば世田谷美術館とかもすっごい好きで行くんですけど。区にこんな素晴らしい施設がいっぱいあるなんて、結構珍しいしすごいなって思ってて。参加してみると、おじいちゃん、おばあちゃんもいるし、新しく来た若者へも、両方に対する支援がすごくできてるなと思って。世田谷区、とってもラブみが強い。笑

ファゴットのソロパートについて語り合う元吹奏楽部の2人…

やました:ではあらためて「あなたにとっての世田谷とは」をうかがってもいいですか?

詩乃さん:なんか難しいというか、良いこと言いたくなるから難しい。笑

やました:そうですね。笑

詩乃さん:私は、自分のことがちょっと好きになれる街。

やました:おお〜、標語みたいですね!

詩乃さん:私の場合、実家が転勤族ということもあったり、旅行もよくしていて、転々としてる時期が長いから、いろんな都市に対するスタンプラリーを集めている感じの生き方だなと思ってて。
街に対して落ち着くとか、好きだな、面白いなって思うことはたくさんあるけれど、逆に“特定の街にいる自分”に対してあれこれフィードバックできることは少ない。その点、世田谷は、街そのものが好きであるうえに、そこで暮らしている自分のことさえ、好きになれる。街と自分とを交互に見つめられるっていうのが珍しいところなんですよね。



〈あとがき〉
久しぶりのインタビュー企画でしたが、今回も載せきれないエピソードが山ほどあるぐらい、たくさんのお話を聞かせていただきました。
中でも、好みのテイストは「江戸時代の末期」とおっしゃった時、衝撃が走ったと同時に、お持ちの家具やお部屋を見渡してみて、なるほど~と唸りました。江戸時代の末期のインテリア、今まで気にしたことがなかったな…。
世田谷にカムバックして、自分が好きな家具をそろえ、好奇心が赴くまま生き生きと自分らしい暮らしを送る詩乃さん、本当に素敵です!
私自身ももっと素敵に、豊かに毎日を暮らしたいと思えるような、貴重な機会でした。詩乃さん、ありがとうございました!


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