「書けないお悩み相談室」に寄せられた質問への回答──編集をめぐる雑感⑦

先日、代官山 蔦屋書店主催で『ライティングの哲学』の出版記念イベントがあった。参加者の方から執筆に関する悩みをたくさんいただいたけれど、時間がなくて触れられないものも多くて恐縮。

というわけで、質問に答えてみました。明らかにぼくに向けられてないもの・答えられないもの(小説の書き方など)は外したけれど、ほかはだいたい全部回答したと思います。よければどうぞ。

◯悩みを悩みとして書くことができず、悩んでいます。悩みを悩んではいるのですが……。

書こうとするとその悩みを否認してしまうってことだろうか。そうだとしたら自分もよくあります。気持ちとしてはめっちゃ辛いのに、いかにも冷静って感じで、すぐ解消・解決されるもののように書いてしまうみたいな。この問題マジでキツいから考えないようにしてるかも。否認……。

◯「書く」前にやる、ルーティン的なことがあれば教えてください。

タバコを吸う。本棚見てグッときた本を手にとって、吸いながらよさげなところ線引く。思ったことを書きつける。これを最近やってます。

◯インタビューした後、予想と違う回答だったときに何をどうまとめたらいいかわからない

可能ならインタビュー中に方向転換を図りたいところですけどね。途中でハンドルを切るのが難しい場合は、そもそも相手がこちらのストーリーに乗ってこなくても大丈夫なように、淡々と質問するスタイルを準備しておくといいかもです。まとめる際にも、あんまりエモい感じにするとか考えず、淡々とやっていくといいと思います。いったん初稿段階まで持っていけば、意外とストーリーラインがあるように見えてくることも多いでは。

○就活の「自己PR」がなぜ必要なのか今一つ分からない。しばしば自己分析が大事と言われるが、自分を分析しても堂々巡りにしかならない。自分の振る舞いは他者との関係性によるから、何を書けばいいのわからない。趣旨とズレていたらすみません。。。

ゲームのキャラ選択みたいなイメージでいいと思います。1. 論理的に考えて行動できます、2. 他人の気持ちに寄り添うことができます、のどっちのキャラが自分に合ってますかみたいな。それが決まったらキャラの説得力を高めるような小咄を自分の経験からつくる(嘘はつかないほうがいいです)。──エッセイっぽい原稿を書くときは、自分もなんとなくキャラみたいなこと考えます。優しそうにしようとかエラそうにしようとか。

◯書きたいことはあるが、いざ書こうとすると言葉が続かない。文字として出てきた言葉が自分の言いたいこととズレている感覚がある。

わかるなあ。自分はだいたい次のように考えています。1. 言いたいことと書かれる言葉との調整は時間がかかる、2. 最初に出てくる言葉は少なくとも調整のための材料として役立つ、3. したがって出せるだけ出して様子を見る。

◯デジタルデバイスと紙のノートをどう意識的に使い分けていますか?私はいつもなんとなくキーボードで書きたいなあという時はキーボードで書き、手書きがしたくなる時はiPadでメモをしたり紙のノートに書いたりしているのですが、それぞれの使い方が明確に定まらないことにモヤモヤしています。紙とデジタルの使い分けの指針があれば教えていただきたいです。

共感。自分は字が下手なこともあり、ほぼデジタルです。たまに手書きでメモをとると気分がいいので組み合わせを模索したいところですが、うまくいってないですね。

◯日記を書いているのですが、ネガティブな気持ちはなぜか書きやすいので、後で読み返したくないことばかり書いてしまいます。なので、書いているというより文字を吐き出してるみたいで、「書けた」という感触がありません。

自分もそうなっちゃうことあります。そのときは気持ち以外の要素を入れるように意識しています。たとえば、本の引用や風景の描写、数字やデータなど。冷たくて、明確で、具体的で、物質感のある記述を増やしていくと、書いた感じになるし、ネガティブさも薄れるかなと。

○(締め切り過ぎてしまっているのですが……)大学のレポートや自分のブログなどで文章を書くとき、どうしても別の書物に当たったり引用したりして書くことができません。参照文献リストや引用注の書き方は教わったのですが、執筆過程において他者の書いた何かをどうやって参照し引用するのかについて(の試行錯誤)をこれまであまり耳にしたことなく困っています。いわゆる「巨人の肩に乗る」ということだと思うのですが、自分の思考や執筆の中に巨人を巻き込むことができず、しかしそれらの要素があればもっといま書いている文章は説得性を増し思考も深まるだろうに……と毎回落ち込んでしまいます(執筆における悩みの、もしかしたら一番どうにかしたいことかもしれない!)。皆さんは、自分で文章を書くとき、どのように他人の書いた文章を使っているのか(そこには当然ふだんの読書や勉強の要素も入ってくるでしょう)、お聞きできたら嬉しいです。

ぼくも引用は苦手です。そして、そういう人は多いと思います。大前提として、引用って慣れてる人でない限り、めっちゃ面倒くさいはずです。引用したいものがあったとしても、どこになにが書いてあったかなんておぼえてないし、それ探すのダルいし……。一応、ぼくは引用ストックをつくっています。カッコイイ言葉とか、端的な表現に触れた気持ちのときがあって、そういうときに時間とってつくる。具体的に原稿をつくっている最中でも、「今日は引用を集める日」みたいに決めて作業します。ストックをつくれば、その過程で引用する際の文脈も考えることになってイイ感じ。

○書いているうちに、思考が進んでしまい、常に全面書き直しのようになり、書き終えること(有限化)ができない

1. 書き直しになってもいいように分散的に文を生成し最後に編集する(詳細は本のなかでぼくが書いてるエッセイみてください)。2. 自分が絶対に書き終えられるような強い外的条件を設定する(破らないであろう締め切りにチャレンジする、友達に見張っててもらって終わるまで部屋から出ないなど)。

○会社員をしながら時々音楽メディアに寄稿しています。学生時代から7年ほど続けていますが、カルチャー全般の知識の乏しさにずっとコンプレックスを抱えています。書く対象についての手持ちの知識の少なさに毎回苦しみ、付け焼き刃で調べたこともほとんど活かせず、エモでごまかすような原稿ばかりになってしまうのが苦痛です。 「ここまで詳しくなればOK」なんてラインは無いし、どんなに詳しく見える人にも穴はあると頭では分かっているのですが、条件反射的なコンプレックスが一向に消えません。そのことで二週間くらい布団にくるまって悩んでいたのに、いざ机に向かうと2日で書き上がったりします。最近は出た原稿についても特に反応がないことが多く、すっかり自信をなくしてしまいました。 皆さんには書くことに対する慢性的なコンプレックスはありますか?コンプレックスに追い詰められたとき、どうモチベーションを維持していますか?

あります。強い順に、1. 文章が下手、2. 途中で飽きてテキトーに終わらせる、3. 自分の問題意識に正面から向き合うための準備をサボる、です。コンプが発生したら、その文章に対する初発のモチベがなんだったのか思い出すようにしています。そこがぼんやりしてる感じなら、自分の場合は詰みかなあ。打つ手なし、質問者と同様に布団コースです……。まあ、それもしばらく放っておいたらなんとかなることもあるけど、ときにはマジで書き上げられず放棄することもあります。

○1日の中での書く時間を、どのように定め確保されていますか?(仕事柄不規則でルーティンを作らずにいます…)

つくれていないです。終わってる。この記事の更新時間を見てみてください。

○仕事でライターをしている者です。原稿は思い入れの強いものほど書けないのですが、友人へのLINEやメールの文面は自分でも驚くほどすらすらと書ける現象を不思議に思っています。言いたいことが明確であれば書けるとしたら、原稿もそうなるのでは?なぜ原稿となると途端に書けなくなってしまうのか?と思えば思うほど余計に原稿が進まなくなります。なにかヒントをいただけたら幸いです。

わかるなあ。ただ、ぼくはそもそも人間はそういう生き物だと思ってます。なので、むしろその性質を利用して(自分担当の原稿の内容ですが)、書こうと思っていることを友人に送りつけたり、誰にも求められていないのに企画書みたいなフォーマットでまとめたりして、原稿の元素材をつくります。原稿の書けなさという感覚に対して、なるべく関わりたくないゆえ(布団ルート直行なので……)。

○24歳、音楽ライターです。頭の中で文章の構成を考えてから書きら始めるのですが、考えてから書き始めるまでが苦痛です。また、書いている文章が完成形が見えてきた(7割ほどできた)途端、書く気がなくなります。自分では「脳から文章をワードに出力(書き起こ)している」感覚がするのが、辛さの原因なのではないかと思っているのですが、こうした「出力」の感覚とうまく付き合うためにはどうしたらいいのでしょうか。

完成形が近づいてくるとやる気がなくなる問題、マジわかります。ぼくもどうしていいかわからないです、なにも言えることはない……。もっともっと、完成度を上げることに力を使えるようになりたいなあ。他方で「出力」問題については別の論点かなと。音声入力して編集かけるとか、結構いろいろやれることありそうな気が。

○書き終わったものの納得がいかなくて、でも締め切りがあるので提出したものを、提出したあとに更に直すとき、その後すぐに取り掛かりますか。もしくは少し時間をおいてから直し始めますか。

イベントでも話しましたが、大幅修正が必要だと強迫的に思い込んでいる場合は絶対に触らないようにします。ヘンなテンションで原稿に触るとグチャグチャになるからです。逆に具体的かつ一部の修正点にすぎない場合はすぐやります。忘れちゃうので。

以上です。質問を読んでて、ああ本を読んでくれたなって嬉しくなったり、こういう人がこれから読むならきっと楽しんでもらえるだろうなって安心したりして、なんとなくイイ感じになれました。また答えるなかで、自分のやり方や課題を改めて振り返ることができたのもよかった。感謝……。

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