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『design alternatives』創刊に寄せて(前編)

このマガジン『design alternatives』の紹介と、4月のテーマ「デザインリサーチ」について編集部の太田・瀬下が話しました。

How do we design alternatives?

太田:みなさま、こんにちは。ぼくは1992年生まれのエディトリアルデザイナー、兼、Design Ficition Writer──この肩書きについては回を改めて話しましょう──をやっている太田です。瀬下くんとはレトリカ(Rhetorica)の名前で「批評とメディアのプロジェクト」をずっとやっています。

このマガジンは「design alternatives」の名前を冠して〝(複数の)オルタナティブを模索するデザイン的な営み〟を毎月取り上げていくものです。既存の、いわゆる「デザイン」にとって、それらの動きはかなり周縁的なんだけれども、そのエッジたちを面的に集めていくってことが目論見です。(こうした意図を踏まえて、改めてバナー画像を見てみてほしいな!)

瀬下:どうも、瀬下です。高校生対象の下宿屋さんをやったり(太田くんはそのハウスマスターでもある)、学生参加型で制作する大学の広報誌の編集長をやったり、小さな仕事をいろいろやっています。

ぼくは太田くんと違ってデザイナーではありません。しかし、コミュニティや参加、教育といった、自分にとって大切なテーマについて考えるとき、デザイン領域の事例が参考になることが多いと思っています。そこで太田くんにこのマガジンの創刊を持ちかけました。

マーク・フィッシャー『資本主義リアリズム』という本のなかに、いまの社会ではもはやオルタナティブを思い描くことは不可能なのではないか?(〝Is there no alternative?〟)という問いかけがあります。ぼくはデザインという言葉の拡がりのなかに、この問題提起に答えるヒントが眠っているのではないかと思っています。

4月のテーマ:デザインリサーチ

瀬下:さて本題ですが、4月のテーマは「デザインリサーチ」ですね。どういう意味なんでしょう。

太田:デザインリサーチという言葉の定義をパッとやるのは難しいので、ぼくの師匠でありデザインリサーチ研究者である水野大二郎先生の言葉を借りますね。こんな感じ。

デザインリサーチとは1962年、ロンドンで開催されたデザインの方法論に関する「第1回国際デザイン方法会議」を発端とした学術領域であり、大量生産時代においてもデザイナーが直感や経験に頼ってきたことを反省し、よりシステマティックなデザイン方法論や理論の確立が求められたことに起因する。

水野大二郎「平成時代における参加型デザインリサーチの変容に関する分析」より
1)デザインリサーチは具現化された人工物の性能や機能を対象とする
2)デザインリサーチはデザイナーの制作過程における省察など、人間的活動における生成プロセスを対象とする
3)デザインリサーチは合目的性のあるデザインとしての人工物の外観とその意味を対象とする
4)デザインリサーチは形状の具現化を対象とする
5)デザインリサーチはデザイン活動における、システマティックな調査と知の獲得である

N. Bayazitの定義に関する水野大二郎のまとめより

瀬下:いろいろ書いてあるけど、成果物そのものだけでなくプロセスや意味にもこだわるところが重要なのかね。そうだとしたら、ソーシャルデザインやコミュニティデザイン、デザイン思考というような言葉とも似たところがあると思いました。行政と連携して住民参加型のワークショップを「デザイン」したり、ユーザーをじっくり観察し、そこから洞察を得て「デザイン」したり。

太田:ソーシャルデザインやコミュニティデザインにおけるデザイナー像っていうのは、何らかの社会課題を抱えた地域に入っていき、非デザイナーの利害関係者たちと一緒にプロセスを組み立てながら、新しいうねりを生み出そうとする、きわめてプロセス主義的なデザインの在り方だよね。これはデザインリサーチと親和性があると思う。

少し自分の話をすれば、ぼくは学としてのデザインリサーチを専門とするSFCの水野大二郎研究室で修士課程までやったあと、新卒ですぐに瀬下くんのいる津和野町へ移住して、現場でいろいろ考えたり周りの事例を見たりしている。その経験から言っても、似てるところがあるなと思うよ。

瀬下:そもそもデザインリサーチってあんまり日本では聞かない言葉よね。そう思うから紹介するわけだけども。

太田:そうねえ。日本では、大学のデザイン研究者や、それに興味があるデザイナーの間で少し関心が持たれ始めているくらいかな。京都工芸繊維大学のD-labTakramが頑張って英語を翻訳しながら紹介しているけれど、デザイン思考ほど浸透していない。イギリスやオランダ、アメリカ(ニューヨーク、ボストン、カリフォルニア)といった、デザインスクールがたくさんある場所では普通に使われているんだけどね。

具体的な日本のデザインリサーチの事例を紹介すると、デザインリサーチャーの神野真実さんが取り組む以下のプロジェクトはたいへん参考になるはずです。

リサーチは基礎調査として行われ、特定の課題解決に直結するものではなく、高齢社会における課題解決のための新たな視点や議論のきっかけとなることを目的に実施しました

高齢社会の機会領域を探るデザインリサーチより(太字は引用者)

今回のリサーチにおいてはデザインリサーチの手法を採用しています。デザインリサーチとは、マーケティングリサーチとは異なり、これまでのマーケットの延長線上にはないようなプロダクトやサービスを生み出す気付きを得るものです。

「若者のお金との向き合い方を探った、デザインリサーチの全容」より(太字は引用者)

太田:彼女は質的調査のエスノグラフィをベースにしてリサーチ対象者とじっくり向き合うことから、ビジネス的な価値を導出しようとしています。実は記念すべき第一回目のインタビューを彼女にお願いしようと思っています。まだオファーしていませんが!w

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