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No. 42 息子の入園 いつまで続く…

15年前、息子が幼稚園に入園したあの頃に思いを馳せている。
当時つけていた母子手帳の記録を見ながら、「あったねー、こんなことねー」と、よみがえるその光景が、本当に昨日のことのよう。

息子は元気な明るい宇宙人、ではなくて男の子だったけれど、繊細でとても怖がりな子供でもあった。
特に新しい「場所」にはなかなか馴染めず、人見知りならぬ、家見知り。慣れない場所では警戒して居心地が悪そうにしながら、そこにいる知っている人物のそばから離れない。
幼稚園もそうだった。よく覚えている。
遠い目……

入園児全員の練習保育が終わり、いよいよ通常保育が始まった。毎朝自転車で息子を幼稚園まで送って行く。
門を入り自転車を降りて、園庭内の通園路を歩く。玄関まで子供を送り、そこで待っている園長先生が園児ひとりひとりを「おはようございます」と迎えてくれるので、親は子供を託してそこで帰る。
わが家の問題はそこにあり。
「おはようございます」と言う園長先生に、
子供も立ち止まり「おはようございます」とお辞儀をして玄関を入るのだけれど、息子はそこで立ち止まったまま動かない。中に入らない。

まあね。まぁね。まあよくあることだ。
他にも「行かない〜」「ママ〜っ」と泣いている子が何人もいる。入園あるあるだ。
息子は泣きはしないが、断固として中に入らなかった。
園児全員を迎え入れると、玄関の扉には鍵がかけられる。外にいる息子は、そのあと園庭に出てきて花壇のお世話をする園長先生に誘われて、毎日1時間ほどそこにいた。当然私もそこにいる。
なぜなら、息子がその気になったら、私が着替えを見守り(手伝い)、教室まで連れていく必要があるから。
まあ仕方がない。ある程度は想定内でもあった。しばらく経つと、朝、玄関のところで泣いている子は一人、また一人といなくなり、ついにウチだけになった。おぬし、ねばるのぉ。
長女が通っていた時から知り合いだった母たちが、悲しそうに私を見ながら「じゃあね」と帰って行く。
夏休みが終わり2学期になっても、息子はまだそれをやっていて、私もだいぶ疲れてきている。
そろそろ冬休み、という頃になっても相変わらずだ。
はあ……

お正月が明けて、今年はどうだ? と期待半分、疑い半分、そんな気持ちで3学期が始まった。
変わらない。また、嫌だと言って中に入らない。

ぶちっ。
私の忍耐が切れた。
「帰る」

「嫌だ。入らない」とごねている息子を幼稚園の玄関に残して、私は駐輪場まで走った。本気で帰ろうと思って走った。
その後を泣きながら追いかけてきた息子が「帰らないでー」と縋るが、知るかー!
何ヶ月こんなことやっていると思っているんだ。付き合いきれん! ブツブツ…
そこに担任の先生が慌てて走ってきて、泣いて暴れる息子を抱き上げて園内へ連れて行った。

「それが出来るならもっと早くそうしてくれ…」

まさか本当に、誰もいない駐輪場に息子を一人残して帰るわけには行かない。内心どうしようかと思っていたから助かったけれど、
「それができるなら、とっくにやって欲しい…」
そう思った。

翌日はどうするのかと思いながら、いつも通り、変わらぬ朝を過ごして幼稚園まで送った。
「じゃあね、ママ いってきます」
何事も無かったように、玄関を入る息子。
翌日も、その翌日も、その後もずっと、息子は、つきものが落ちたように普通に幼稚園に通った。
その小さい背中を見送りながら、ホッとした。

今日も幸せな一日でありますように。

Love & Peace,

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