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雨と霧

そのとき私は目を覚ました。もう私は平和ではない。かつて彼を求めていたように彼を求めている。彼と一緒にサンドイッチを食べていたい。彼とバーでお酒を飲んでいたい。私は疲れ果てた。これ以上の苦痛は欲しくない。モーリスがほしい。普通の堕落した人間の愛がほしい。親愛なる神様、あなたはご存じなはずです。あなたの与える苦痛を私が求めたがっていることを。でも、今の私は求めていません。しばらくそれを取り上げておいて、いつか別のときに与えてください。

グレアム・グリーン『情事の終わり』1951年/上岡伸雄訳

 

悲しい夢を見た。もう会えない人の夢だ。冬の朝は嫌だなあ…。

雨は降っていないけれど、グレアム・グリーンの『情事の終わり』を思い出した。
冬の冷たいどしゃ降りの夜から始まるストーリー。


寝室のどこかにあるスピーカーからマッシブ・アタックの曲が流れ始めた。空調が微かな音を立てて0.5 度ほど室温を上げ、南側の窓を覆う縦形ルーバーが30度ほど緩やかに開いた。ダウンライト、壁に投影されるBBCニュースの映像は徐々に光量を上げ、夫の啓介が私のために設定した朝を作り出していく。

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