記念日
15日に治療の方針を含めた診断が出るのだけど、今の段階で自分は乳癌のステージ3bと告知を受けている。
異変に気付いたのは1月中旬で、月経前後にある乳房の張りが治まらず、硬いしこりが確認出来た。
マンモグラフィでは良性の乳腺症だと診断が降りたのでひと安心していたら、直後に逆の乳房の生体検査を急ぎで行うように、ここでは治療出来ないと医院から半強制的に大学病院の予約を取っていたので「これはまずいんじゃないか」と察した。
最近は癌はほぼ全て告知するようになっているようで、たとえ終末期であっても余命まで伝えるようだ。某大学病院で初診時の段階で「間違いなく乳癌で進行が早い一番タチの悪いタイプだ」と伝えられた。それでも転移さえしていなければ完全治療が可能らしい。激痛があり、腫れが酷くて肉割れを起こして分泌物が外に出てくる症状は既にあるので予感はしていた。
「はっきり分かって良かった」というのが告知を受けた時の感想だ。
私は幾度か自死を決行したことがある。
それは死がリアルに感じられないが故の無知からの行動だったのだと今は思う。残り数年しか生きられないのだとしたらどうすればいいだろうか、恋人に不安をそのまま垂れ流したことも幾度となくある。
私が判断力に欠けているとき、彼は黙って聴くだけで決して自分の意見を言わない。肯定も否定もしない。先を促したりもせずに私のペースに合わせて話を聴いている。
「私が生きることで家族が経済的に苦しむのなら家族を生かすために自分の治療は放棄し、残りの人生を家族の生のために使う方が良い」と結論を出したのはつい最近のことだ。
その直後「お前の感覚は何と言っている?」と彼から質問があった。
この人は自分に私を引き寄せるときに私をこう呼ぶ。その引き寄せるタイミングは私の中での結論が出てるときだ。絶対に自分の意志を私に介在させない。自分の言葉の強さをよく分かっているから。
「本能のままに。生きたい気持ちを強く持って生きろと言われてる気がする」
自分の別の人格の感覚を辿るように本心を探ってみると、この言葉が口に出た。
しっかり聞き届けてくれた後「ノリと勘で生きてきたのなら、ノリと勘で死になさい。今更理屈で死のうとするのは今までのあなたが許さないだろう」
と彼の言葉を聴いた。
この人は私の生命力を信じて何も言わなかったのだ。
治療が始まってどれだけ見た目が変わる話をしても「人間は変化するものだ」「生還した生命を愛おしいと思わない者がどこにいるというのだ」と平然と返していた。
関係が始まって一年以上経過するけど、その間、彼から私を突き放すこともあったし、別の縁を祝福してくれたこともあった。どんな状態の私であってもいつも見守ってくれていて、環境が変わっても変わらない愛で接してくれていたのだった。理屈や見た目ではなく、私の生命と生命力を愛してくれてるのだなぁ、と癌に罹患してからは改めて実感する。
色々な意味でこの人は私が最期に愛する人となるだろう。
今日、その彼の誕生日を迎えた。
生まれてきてくれて本当にありがとう、と心からお礼を言いたい。
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