湯煙

一日、400文字進む物語。

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繋がりの幻

バイトを始めて、あることに気づきました。それは、自分には誰も興味がないということ。最初は、視線を気にしなくて済むことに安堵したのも束の間、ある日突然、この事実が恐ろしく思えてきたのです。  私は、他の人にとって利用価値のある一人の存在でしかないのかもしれない。誰も私のことを本当に思ってくれていないのではないか。学校の先生は、生徒を愛しているように見えたのに。七五三で「可愛い」と声をかけてくれたカメラマンも、心からそう思っていたわけではないのかもしれない。ピアノの発表会の拍手

    • アルプスの底で僕らは 

      長野の片隅、リンゴの香りと少年の秘密長野の静かな町。りんご畑が続くその片隅で、僕は相撲一家の跡取りとして育った。正直、土俵の上で汗を流すことにあまり喜びを感じていなかった。それでも、親の期待に応え、毎朝、力士部屋で稽古に励んでいた。 ある夏の午後、逃げ出したように家を抜け出し、川辺を歩いていると、一人の少年と出会った。その少年は、どこか掴みどころのない、ミステリアスな雰囲気を漂わせていた。 「あの山、剣城岳って言うんだ。日本一登るのが難しい山だって。」 少年は、そう告げ

    繋がりの幻