◇好評連載【心理学の問題 連載30】 リプロセス・リトリート
グループワークで自分を癒す
リプロセス・リトリートとは、多くのアダルトチルドレンのカウンセリングをしてきた西尾和美が作り上げたグループワーク(集団の作業)である。アダルトチルドレンが何人か集まって、様々なワークをしていく中で、自分を癒(いや)していく。
1対1のカウンセリングでは、言葉のやりとりが中心となり、活動の幅も狭くなるが、大勢が集まってワークをすることができれば、似たような悩みを持っている人の切実な話を聞いて涙したり、互いにハグ(相手を抱きつつむ)をしたり、自分がトラウマ(心的外傷)を受けた状況を再現しようとするときに、他の人に協力してもらって、劇をすることもできる。
多くの場合、同じメンバーで何度もワークを行なうので、メンバー同士の気脈もどんどん通じてくる。結果、1対1のワークよりも、より強力な効果が得られることが多い。
リプロセス・リトリートは、様々なワークが組み合わせられて行なわれる。活動は次のようなものがある。
リチュアル:儀式。例えば、最後のグループワークで、卒業式のようなことを行ない、皆の前で誓いの言葉を述べて、部屋から外に出て、「新しい人生を歩んで行こう」という象徴となる動きをしたりする。リチュアルには様々な種類があり、構成メンバーが自由に自分達に必要なリチュアルを作り出し、行うことができる。
ジャーナリング:自分自身が過去にどのような傷を受けたか書き出してみたり、実際には出さない手紙を書くこと。
話し合い:自分の体験、傷を話し合い、皆で分かち合って、互いに慰め合い、支え合う。他人の心の傷の話を聞けば、「自分も恥ずかしがらすに話して大丈夫なんだ」と思うことができるし、悩みを抱えているのが自分だけではないことが分かる。
アートセラピー:自分の気持や傷を、絵や粘土などで表してみる。その絵を見ながら皆の前で自分の気持を説明すると、言葉で話すよりもずっとすっきりすることも多い。
ボディセラピー:心の傷は、身体にも影響を及ぼしている。固く凝り固まった身体をほぐすことで楽になる場合も多い。ヨガ、太極拳、呼吸法、ダンス、散歩などを行なって、身体の側面から自分の傷と向き合う。
メディテーション:ボディセラピーと似た面もあるが、自分の身体や自分の心の奥からのメッセージに向き合う。また、深くゆったりと呼吸することで、普段の、心配していたり、落ち着かなかったりする自分から離れた体験をする。
サイコドラマで自分を癒す
リプロセス:過去に自分が受けた傷を再現する。劇などで再現する場合が多い。これは様々な形を取る。実際にトラウマを受けたシーンを再現する場合もあるし、その際に感じた自分の苦しみを大きな声で叫ぶこともある。また、同じシチュエーション(状態)で、「本当は、相手にこういうふうに接してほしかった」という状況を劇にしてもよい。
例えば、自分が父親に性的虐待を受けて、母に相談した時に、逆に母が怒り出して、何度も叩かれた経験があったとすると、逆に、母親役の人にやさしくハグをしてもらって、「よく話してくれたね。これからはお母さんが守るからね。これからは、お母さんがいつでも、ついていてあげる」と言ってもらう、などである。
その時の自分に十分な力があったら、行なえたであろう行動を行なってもよいし、自分に傷を与えた相手に対してやりたかったことをやることもできる。メンバーに父親役になってもらって、性的虐待をしようとする父親をはねのけたり、父親に、自分の思いをぶつけることもできる。
このような劇は、他の参加者の心も深く打ち、似たような思いをした他の参加者にとっても、大きな癒しとなる。このような劇をサイコドラマという。このサイコドラマを、自分が必要と思えるだけ、様々なパターンで行なうことができるし、他の人のサイコドラマを見て、自分が気付かずに放っておいた傷に気づき、癒すことができる。
もちろん、リプロセス・リトリートの間に、普段よりも逆に抑うつ的になる場合もある。しかし、これは自分が今まで抱えていた問題に直面しているからであって、そのような状態も必要なのである。
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