◇特集【明日を創る・日本を創る】期待の野党1期生コンビ特別対談インタビュー(前編)
コロナ禍の今、政治は何をもって
国民の期待に応える?
・中谷 一馬(なかたに かずま)氏
衆議院議員(立憲民主党)。神奈川7区(横浜市港北区・都筑区)選出。
1983年8月30生まれ、37歳。第94代内閣総理大臣 菅直人の秘書を経て、2011年統一地方選挙にて27歳で初当選し、神奈川県政史上最年少議員となる。世界経済フォーラム(通称:ダボス会議)のGlobal Shapersに地方議員として史上初選出される。2012年には第7回マニフェスト大賞にて、最優秀政策提言賞を受賞。近著『セイジカ新世代』(幻冬舎)が「憲政の神様」尾崎行雄記念財団が選ぶ「今年の一冊」咢堂ブックオブザイヤー2020にて大賞を受賞。
・青山 大人(あおやま やまと)氏
衆議院議員(立憲民主党)。茨城6区(土浦市・石岡市・つくば市・つくばみらい市・かすみがうら市・小美玉市の一部)選出。
1979年1月24日生まれ、42歳。慶應義塾大学経済学部卒業後、衆議院議秘書として政治に携わる。27歳で茨城県議会議員選挙に初当選(当時、全国最年少の都道府県議会議員)。第21回日米青年政治指導者交流プログラム日本代表団に選抜される。茨城県議会議員選挙2期目当選(31歳)、第48回衆議院議員総選挙にて、比例北関東ブロックにて当選(38歳)。国会議員でありながら、大学受験予備校で世界史を教える塾講師の顔も持つ。
本連載「明日を創る 日本を創る」は、今年3月で10年を迎えた。
これまで、主に地方議員を対象に120名の議員を取材してきた。
その中で、現在、国会議員として活躍している中谷一馬氏と青山大人氏に
10周年を記念して、特別対談インタビューを行なった。
本会議場が静まり返った安倍総理(元)への質問
――国会議員になって印象的だったことを教えて下さい。
青山 私が覚えているのは、中谷さんが3年前の衆議院本会議で、当時の安倍総理に対し「総理はお金に困ったことがありますか?」と質問したことです。国会中継を見ても分かるように、本会議場は大抵野次などが飛び交ってざわざわしていますが、中谷さんがその質問を投げかけた時に、議場が静まり返りました。
あの時は、所属政党関係なく、議場にいた衆議院議員全員が、「中谷一馬って何者だ?」と思いましたよ。あの時の質問をするに至った経緯を本人から伺いたいです。
中谷 私は母子家庭の貧困家庭に育ちました。私が小学校5年生の時に父と母が離婚し、母が女手一つで私と妹二人を苦労して育ててくれました。しかし、朝から晩まで働いても生活は厳しいままでした。
この国のひとり親家庭のお父さんもしくはお母さんは、81・8%が働いていますが、その内、50・8%は貧困状態です。非正規社員の方の平均年収は約179万円、つまり月15万円の月収を超えることが極めて難しいのです。母も一日十数時間働いてくれていましたが、ある時期に体を壊して寝込むようになり、そこから私達は生活保護を受けるようになりました。
当時、子どもだった私は、ただ無力で、そのことに悔しさを感じながらも母の代わりに働きに出て、家計を支える力はありませんでした。自分の努力だけでは超えられない壁があることを、私は自分の原体験から学びました。そういう人達に手を差し伸べるのが政治の本懐であるはずなのに、今の政府の政策決定を見ると、市民生活に対する想像力や社会的弱者に対する共感力が極めて弱いと思うことが多いのです。そこで私は安倍総理に先のような質問をさせてもらいました。
大臣を即決させた三方よしの政策提案
――その質問に対して安倍さんはどのように答えたのですか?
中谷 非常に真摯に答えて下さいました。「私はお金に困った経験はありません。想像力や共感力が欠如しているというご指摘は甘んじて受け入れて行かなくてはいけないと思います」と、寛容な答弁を下さいました。そこに対しては、私は一定の評価をさせてもらっています。
青山 あの質問は報道各社も取り上げ、その後の政策決定にも少なからず影響を与えたのは事実だと思っています。さらに最近はコロナ禍の影響で、本当に大変なご家庭が増えています。私もそういう声はたくさん伺っています。
2000年代に入り、新自由主義がもたらした格差の拡大が、今回のコロナ禍でさらに如実に現れてしまいました。政治の一端にいる者として忸怩たる思いです。
中谷 どうしても野党サイドにいると、ドラスティックに政策を動かすことは至難の業です。しかし、野党の中でも特にそれを実行しているのが青山さんです。コロナ禍で食品関係の流通が滞っていた状態で、当時、自民党さんは「お肉券」を発行して国産牛肉の購入を促そうとしました。
青山 和牛振興券ね! あったね。
中谷 なぜそんな案しか出ないのだと私達が怒っていた時に、青山さんが当時の農林水産大臣に「質の良い国産の和牛が世の中に流通しないのは非常に残念なことだから、これを学校給食に分配すれば、子ども達の食育にも良いし、小さい頃から和牛の美味しさを知ることで将来的な消費の喚起にも繋がるはず」と国会で提案されました。
すると、普通はそんなことは絶対ないのですが、大臣がその場で、「今の青山さんの案は良いので、文科大臣と相談して是非実行する方向で調整したい」という趣旨の答弁をされました。実際にその案は全国の都道府県で実現されて行きました。
これは、自治体、消費者、生産者それぞれにとって良い、まさに三方よしの政策でした。地方議員をしっかりと経験されてきたからこその発想だなと感心させられました。
――大臣が野党議員の案に対し、その場で採用するというのは珍しいことでしょうね。
中谷 まずあり得ないことです。あれは半端じゃなかったですね。
青山 私は、以前から食品関係の政策に関して疑問を持っていました。質の良い国産の肉、魚、農産物を、どうやって輸出を促進しようかとか、どうやって海外旅行者向けにPRしようかなどの議論ばかりが行なわれていました。
一方で私達が普段スーパーに行って買い求めるお肉は海外産のものが多いです。和牛は高いですから。せっかく日本で生まれた子ども達が、日本で作られた美味しい食べ物の美味しさを知らずに大人になって行く現実があります。
フランスでは、子ども達への食育の一環で、給食にフランスの特産品を出して、食のマナーも含めて教えています。私の地元の茨城県も農業大県ですが、よく生産者の方達は「自分達が作ったものを子ども達に食べてもらいたい」とよく言われています。
野党は政府の法案に約9割は賛成している
――子ども達に、美味しい和牛が食べられたのは、青山さんが国会で提案した一言があったからだと伝えられたら、政治に興味を持つ子が増えると思いますが。
青山 それは難しい話ですね(笑)どうしても我々野党はいつも、「総理!」と批判しているイメージが先行しています。それはしょうがないのです。それも野党の役割です。
中谷 確かに、批判もなく、全てに賛成して行く組織は自浄作用の働かないおかしな組織となってしまいます。日本国という組織を運営する中で、「ここは改善して下さい」と、政権与党に提言することで、気付かなかったことに気付きを与えることができます。それが野党の役割の一つだと思います。
ただ、よく誤解されるのは、野党は政府の提出法案に対して反対ばかりしているように思われますが、約9割は賛成しているのです。しかし、そういう法案はあまり盛り上がらないのでメディアも取り上げにくいのだと思います。
どうしても、与野党が対決している法案がメディアでは取り上げられがちで、そうなると必ず野党側は政府に対して厳しい論調で戦っている姿が報道されることになりますので、野党はいつも批判をしているというイメージが持たれてしまいます。でもそれは実態と違うので少し残念だなと思います。
――そういったことも含めて、メディアの政治に対する報道姿勢を常日頃どのように感じていますか?
青山 まあそういう報道も含めて、我々の役割なのかなと思います。批判して頂けるマスメディアの役割も必要だと思っています。そこは是非世論時報さんに、他とは違った切り口で報道してもらいたいですね(笑)
中谷 民主主義である以上、政治家のレベルは国民のレベルということになります。皆が投票に行った結果、もしくは行かなかった結果によって、今の政治家が生まれています。
そしてその政治家が国会で言えば、1億2600万国民のルールや年間100兆円の予算配分を決めているので、政治を変えようと思った時に、私達国民一人ひとりがより政治に目を向け、自分が託した政治家や政党がしっかりと機能しているかどうかを見極めて、次の投票行動を決めて行かなくてはいけません。
メディアに関しても、政治家のイメージが悪くなるような報道がされていたとしても、報道各社はそれを視聴者が求めていると判断して報道されているわけです。野党がコロナに関する建設的な対策案を提案しても、その記事はほとんど読まれないので、報道しづらいとメディアの方から言われたことがあります。即ち、政治家やメディアのあり方を改善するためには、私たち国民一人ひとりの意識と行動を改善する必要があるということです。 (続く)