◇東光西風【社会を変えるために奮起する若者の力が必要】
自然災害や環境問題、少子高齢化、経済格差、感染症予防対策など、現代社会は多くの課題に直面している。
危機意識を共有し、前向きに議論をしていくためにも、世の中を良く変えていく意欲のある人が政治家となってリーダーシップを発揮してほしい。
議員はやりがいの大きい魅力的な職業
本誌連載『明日を創る 日本を創る』を開始して10年が経過した。これまで、全国の若手議員を約120人取材させてもらった。議員を目指したきっかけや経緯を聞くと、具体的な内容は当然十人十色だが、ほとんどの議員は元々政治が好きで議員になったのではなく、「自分がやらなければ誰がやるのだ」との使命感に後押しされて挑戦したという人ばかりだった印象が強い。
現状の社会を憂いて、まずは自分の住む街を変え、引いては日本全体を明るくして行きたいとの思いで日夜奮闘している様子を伺うと、マスメディアでは不祥事や失言ばかりが取り上げられて負のイメージを帯びやすい議員だが、実際は、やりがいの大きい魅力的な職業であることを感じた。同時に、有能な議員がいるかいないかは、その地域の未来を左右させる要因になると思わされた。
今後、人口がどんどん減少して行く日本社会において、存亡の危機に瀕する自治体は数知れない。ある調査では、日本に全部で1741ある自治体の内、2040年には、896の自治体が消滅の危機に晒されるという。村や町の消滅は、その土地で長年に亘って培われた有形無形の文化を継承して行く人材の消滅を意味する。日本各地に散らばるそれらの貴重な財産を失わないためにも、志と能力のある人材がどんどん議員となって地域を活性化させてくれることを期待したい。
議員は、その地域に住む市民の声を代弁する立場なので、理想的には、幅広い世代から、男女数が均等になるような比率で選出されるべきである。
しかし、全国の地方議会における女性議員の割合は13・2%と低い。議員10人中、男性が9人で女性が1人という比率では、女性の視点から捉えられた声が議会に充分届いているとは言い難い。
さらに、男性議員も圧倒的に年配者が多い。都市部の議会には若手議員が増えている傾向もあるが、地方ではまだまだ年配議員だけで構成された議会が多い(全国町村議会の平均年齢は64・4歳)。
その原因は、個人的には次の2点が大きいと考えられる。
・選挙のハードルが高い
・議員報酬が低い地域が多い
まず、選挙に臨む人の9割以上は、それまで勤めていた仕事を辞める現実がある。これは、現実的に仕事をしながら片手間でできるほど選挙は生易しくないという面と、「選挙に出るなら仕事をきっぱり辞めて退路を断つ覚悟を見せろ」という周囲からのプレッシャーによる面とがある。
その他に、選挙に出るには供託金(県議会選挙は60万円、市議会議員は30万円)をはじめとして、数十万から数百万の選挙資金が必要となる。また、公職選挙法で定められた選挙のルールも極めて複雑だ。
次の議員報酬については、人口の多い都市部や県議会議員の議員報酬は月額70~90万円とむしろ高額だが、人口の少ない市区町村では10万円代という自治体も多い。仮に30~40代の子育て世代が議員を目指したくても、その報酬額では家族を養って行くことは難しい。
若いアイデア力や突破力を求めたい地域ほど、若い人材が飛び込みにくい環境になってしまっている。
様々なアイディアや有能な人材を幅広く集められる
制度の整備が重要
これらの問題点を改善するには、行政側が抜本的にルールを改善してくれることが最も早いが、それはなかなか期待しにくい。そこで民間が工夫している取り組みを紹介したい。
その一つが、「立候補休職制度」で、会社を辞職せずに選挙に挑戦することができ、落選したとしても会社に戻ることができる制度だ。この制度は特に大手企業やベンチャー企業などで、実際に利用して選挙に挑戦する人も増えている。それに似た制度の「議員休職制度」は、選挙に当選して、議員となっても、会社を無給で休職できる制度だ。NTTドコモでは、3期(12年)まで無給の休職を認めており、以前本誌でも紹介した(平成24年6月号掲載)東京都江東区議の鈴木綾子氏はこの制度を利用し、NTTドコモに在職しながら現在も議員活動を続けている。
また、ヨーロッパの多くの国々では、地方議員をしながら兼業をしやすいように法律が整備されている。例えば、「地方議員であるサラリーマンに対し、雇用主は、本会議又は委員会等への出席を許可しなければならない(その時間分の給与は無給にできる)」などだ。
これらのルールが浸透して行き、より幅広い層の人材が議員に挑戦しやすい土壌を作って行くことが、持続可能な社会作りには必要ではないかと考えている。 (立川 秀明)