「戦略ごっこ」:これまでとこれから
久しぶりのnoteです。広告・マーケティング界隈にかなり浸透してきた感のある拙著『戦略ごっこ』。日経クロストレンド→宣伝会議→MarkeZine→マーケティング学会と、連載やレクチャーが一気に増えました。8月、9月とイベントも目白押しです。
一方で、「興味はあるけど、そんなあっちもこっちも見られないよ」という方のために、それぞれの企画意図や読み分けなどについて整理しておきたいと思います。あと、現在の取り組みや今後の予定についても少し書いておきます。
宣伝会議:エビデンスベーストマーケティング実践講座
まず宣伝会議さん。こちらの講座は、上梓以降いろいろな所でお話してきた内容の「総集編」みたいな感じです。なので、戦略ごっこが積読になっていたり、読んだけどまだ自分の言語にはできていないといった方はマッチ度が高いと思います。逆に、他の有料セミナーを見て下さった方や、「戦略ごっこ」のヘビーユーザーには既視感のある内容かもしれません。
ざっとハイライトを載せておくので参考にしてください。
なぜ「ごっこ」になるのか
新規顧客と既存顧客、どちらが重要
ロイヤルティは必要ないのか
なぜ、既存顧客向けの活動だけではまずいのか
買わない理由を解消?買うべき理由を提案?
購入意向や推奨意向は購買の先行指標なのか
スペック面での差別化や優位性で新規獲得できるのか
ブランドイメージのような知覚面の差別化はどの程度有効か
なぜSTPのロジックでは成長できないのか
ペルソナやサイコグラフィクスでは購買行動をうまく説明できない
結局、態度変容モデルの何が問題なのか
サブカテゴリ―の見つけ方、プレミアムラインのつくり方
増分浸透につながる「ゴール×属性」を見つける
キャズムをイメージしている限りキャズムは超えられない
MarkeZine連載:エビデンスベーストマーケティングの基礎
マーケジンさんでは、理論と実証の両面からエビデンスベーストマーケティングの基礎を学ぶ講座(連載)をやります。「理論×実証」という所がポイントです。というのも、ごっこ本自体は海外の先行研究がメインになっているわけですが(≒理論)、中には結構古い研究もあります。また上梓以来、「こういう法則は日本にも当てはまるのか?」「ウチのカテゴリーではどうなんだ?」といった質問を多くいただいています。
ダブルジョパディや購買重複の法則、平均への回帰、パレートシェア、行動ロイヤルティ、新商品の普及パターン、ディリクレモデルなどは、様々な国/カテゴリーで再現研究が行われているのですが、日本では体系立てた再現研究がまだありません。それなら自分たちでやってしまおうということで、現在『ブランディングの科学(朝日新聞出版)』や『戦略ごっこ(日経BP)』で出てきたエビデンスの実証研究をディレクションしています。
11兆円規模の大規模購買データに基づく、国内初のマーケティングエビデンス実証研究
この実証研究はカタリナマーケティングジャパンさんが全面サポートしてくれています。あまり馴染みのない読者もいらっしゃるかと思いますが、購買データ界隈では有名で、全国の大手スーパーマーケットやドラッグストアを中心に店舗数約8,000店、リテールユーザーID数8,000万、月間4億バスケット、年間売上にして11兆円規模のトランザクションという膨大な実購買データを預かるID-POS界の老舗です。
それの何がすごいかというと、これって日本で行われている主要なオフライントランザクションの”ほぼ半分”を占めるデータ規模なんですね。しかも拡大推計ではないID-POSデータなので、いわゆる”レジを通して買う系(消費財など)”のカテゴリー代表性は極めて高い。しかもデータが整っている。日経クロストレンド経由で紹介いただいたのですが、とっても頼りになるパートナーさんです。
実際、ダブルジョパディや購買重複、パレートシェア、平均への回帰などは日本市場でも面白いほど再現されます。また、海外の先行研究には記述のない、日本(カテゴリー)ならではの規則性も少しずつ見つかってきており、1人のマーケティングサイエンティストとして非常にエキサイトしております。
実証研究というと「そんな小難しいことは自分には関係ない」「もっと実践的ですぐに使える”答え”を教えてよ」と思われるかもしれません。しかし、ごっこ本の読者のみなさまは、そのようなマインドセットこそ「ごっこ」の始まりということに内心お気づきのはずです。結局「ごっこ」になるのは、実証をすっ飛ばして、誰かの言う事を妄信し続けた結果なわけですから。
個人的には、マーケターはもっと日常的に実証研究に触れたほうがよいと思っていますし、そのためにも、実務家が読んでも面白くてためになる、そういう研究をしていきたいと思います。
日本マーケティング学会
8/8(木)開催の日本マーケティング学会第195回マーケティングサロンでは、この実証研究の速報を発表する予定です。
こちらは中央大学名誉教授の田中洋先生のご紹介でご縁をいただきました。私はマーケティング学会に所属していますが、大学の研究者ではありません(いずれは、と思う所はあります)。ある意味、特定の学派や流派に属していないからこそ「戦略ごっこ」のような本も書けたという部分もある一方で、アカデミアとどのような関わり方ができるのかを模索してきたという背景もあります。
学術論文と現実の市場はどこまで同じでどこから異なるのか―この実証研究をきっかけに、産学連携の取り組みなどにつなげていければいいなと思っています。ちなみに、日本マーケティング本 大賞2024に「戦略ごっこ」 がノミネートされています(8月31日投票締切)。結果は分かりませんが、なんとも光栄なことです。
MarkeZine Day 2024 Autumn
「実証研究に興味はあるけど、マーケティング学会には入ってないよ」という方は、2024年9月11~12日に開催されるMarkeZine Day 2024 Autumnにお越しください。
マーケターの無意識の「既成概念 」 STP?差別化?鵜呑みにしていた「定石」の真実を知る40分、と題して、速報より広い範囲の実証結果を発表する予定です。2日目の最初の枠です。
ちなみに私のすぐ後の枠で、カタリナマーケティングジャパンの松田副社長によるセッションがあります。題して、、、
タイトルの出だしがいいですね(笑)購買データとGRPデータを突き合わせ、TVCMとブランド購入・体験の関係を解き明かすセッションとのことです。広告系のエビデンスを知りたい方は必見でしょう。というか、誰よりも私が早く見たい!ちなみにスピーカーの松田さんは、内資も外資も含め、事業会社サイドでのファクトベースの経験が豊富なシニアマーケターです。
日経クロストレンド:Coming Soon…
「未顧客理解」「戦略ごっこ」のホームであるクロトレ。先日のフォーラムでのI-ne×戦略ごっこ対談 “ジャイアントキリング”の再現性も好評だったようで、多くの方に見ていただきました。重ねてありがとうございます。振り返り記事とかもそのうち出るのかな?
また、ごっこ本のフォローアップ連載として始まった、常識崩壊「証拠」が語るマーケの真実も、おかげさまで先日掲載された「価格プロモーションにできること、できないこと エビデンスで検証」で17回を迎えました。こちらでは引き続き、ごっこ本や実証研究の要約、論文解説など、エビデンスベースの最新情報をお伝えしていきます。
最後に。
まだ詳しくはお話できませんが、新作を”何冊か”書いています。「ごっこ本を出したらしばらく暇をくれる」という話はどこ吹く風か、まとまった休みが全然取れません。
・・・違うな。なんだかんだ、やっぱり物を書いたり考えたりするのが好きなんですねー。本当は読者のみなさんとまったり交流会とかしてみたいのですが、それもしばらく先の話になりそうです。
その代わり、マーケターに役立つエビデンスを続々とお届けしますので、これからも芹澤および「ごっこワールド」をよろしくおねがいします!