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ナポレオンの親友


1797年夏、ライン河畔から一人の将軍 général がイタリアへ、ボナパルトに会いに来ます。
ボナパルトのイタリア軍はロンバルディアを制し、6年間続いた革命戦争に一応の終止符を打ったところでした。

革命戦争についてはこちらに

フランス革命戦争1 ~
フランス革命戦争1 ~

ライン・モーゼル軍から来た将軍の表向きの任務は、総司令官モローの使いでした。けれど彼の狙いは別のところにありました。旅が好きで知らない人に会うことを好むこの将軍は、是が非でもイタリア戦の戦場跡を見学し、長かった戦争を勝利に導いた「常勝将軍」に会ってみたかったのです。

このイタリアでの出会いから、彼とボナパルトとの間には、深い友情が結ばれたということになっています。

ボナパルトに会いに来た将軍の名は、Louis Charles Antoine Desaix
当面、ルイと呼びます)。

命知らずの勇敢さと、麾下の兵士達の信頼から、ライン(・モーゼル)軍で名を挙げた師団長です。

日本語いろいろ


ところで、彼の姓の "Desaix" なんですが 、日本では様々に表記されています。試みにピックアップしてみますね。

ドゼ― 『赤と黒』スタンダール[小林正]1958

    『ナポレオン言行録』オクターヴ・オブリ[大塚 幸男]1983

    『ナポレオンのエジプト』ニナ・バーリー[竹内和世]2011

デゼ  『恋愛論』スタンダール[大岡昇平]1970

ドセイ 『東方の夢』両角良彦 1987

ドゼ  『ナポレオン戦線従軍記』フランソワ ヴィゴ・ルション[滝川好庸]1988

ドゥセ 『ナポレオン年代記』J.P.ベルト[瓜生洋一 他] 2001

[ ]は翻訳者、数字は日本での刊行年

普通に読んでいたら、「ドゼ―」と「デゼ」が同一人物だなんてわからないですよね……。

des Aix


ルイの一族は、オーヴェルニュの地方貴族で、もともとは、des Aix 、つまり、Aix(の人々)という意味です。

“des(デ)” は、” de(前置詞;英語の of )“ + “ les(定冠詞の複数形)“ の縮約だと思います。“de” は、貴族の名前によくくっついているやつです。
"Aix“ の "ai" は「エ」と読んで、フランス語の母音です。また、音節や単語の末尾の子音は読みませんので、x は無視です。
つまり「エ(Aix)」さん達、ということになりますね!

des Aix で「デゼ」と読みます。
(des Aix はリエゾンというものをして、通常は読まない末尾の子音 s も読み、なおかつこの s は母音(e と A)で挟まれているので濁ります。)

軍において、すでに9歳上の長兄が「デゼ des Aix」を使っていたので、最初ルイは、父の持っていた身分、騎士ヴェグー Chevalier Veygoux を名乗ります。

Desaix

ここで革命が起きます。

兄と弟は王弟らに従って亡命し、国内にはルイだけが残りました。で、彼が「デゼ des Aix」を名乗ることになったのですが、"des(de)~" というのは、いかにも貴族臭くてまずいです。ので、くっつけて Desaix にしたわけです。

同じ作り方をした名前に、後にナポレオンの元帥となったダヴーがいます。彼もまた、元貴族で、本来は d'Avout (de Avout としたいところですが、A が母音なので de が d' になってスペースをツメます)でしたが、くっつけて Davout にしました。ダヴーの場合は、発音は変わりません。

ダヴー
ダヴー

ダヴーはいいです。Desaix です。

名前の成り立ちや故郷オーヴェルニュでの呼び方に従えば、日本語表記は「デゼ」に軍配が上がります。ですが革命により新たに “Desaix” とした場合、パリやストラスブール(ルイは長くここに駐屯していました)では、フランス語本来の発音に則って呼ばれたことでしょう。

“Desaix” を単純にカタカナに移した場合を考えます。

des Aix との違いは、e の読み方です。Desaix と二つの単語がくっついてスペースがなくなってしまったことで、発音に変化が生じてしまうのです。

直後が「子音 + 母音」であった場合、e は読まないという決まりがあります。ここでは e の後に、「子音 s + 母音ai」が来ているので、この e は読みません。e(エ)の音が消えるので、「デ」ゼとはお別れです。

あとは、des Aix と同じです。

そうすると、一番近いのは「ドゥゼ」あるいは「ドゼ」だと思われます。両者の違いは「de」を何と読むかなんですけど、これはもう、好みの問題じゃないでしょうか。マキシム・ド・パリ、か、マキシム・ドゥ・パリかの違いだと思います。

で、「ドゼ」を選んだ場合、原則、フランス語には長音がありませんから、わざわざ「ドゼ―」としなくてもいいかな、と考え、最終的に私は、「ドゼ」を選択しました。

誠に、幾重にもトラップが仕掛けられた発音でございます。フランス語初学者の私が ”Desaix” とまともに向き合えるようになったのは、長編と短編、中編を各々1篇ずつを書き終えた後でした。彼と出会ってから(ちなみに最初に出会った本では「ドゥセ」でした)、4年半は経過していたと思います。
既に書き終えた小説たちは、感覚で「ドゥゼ」とか「ドゥセ」とか書いていました。もう直すのが大変で!
(ブログやチャットノベルは直し切れていません。幾重にもお詫び申し上げます)

最近は「ドゼ―」が主流のような気がしないでもないのですが、ルイの地味で目立たない立ち居振る舞いから、最後の音引きを取った方が彼にふさわしいのではないかと思った次第です。

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短編

勝利か死か Vaincre ou mourir
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中編

オリエント撤退
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長編

負けないダヴーの作り方
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汝、救えるものを救え――「逃げろっ!」


ドゼとボナパルト、格上はどちら?


あああ、大事なことを書き忘れるところだった。
最初に書いたように、ドゼの方からボナパルトに会いに来ています。ですが、軍での経験・昇進の速度は、ドゼの方が遥かに上です。高潔さと祖国への愛もね!
あんまり書くとオタク根性丸出しになり、note に於けるの私の上品なスタンスが崩れてしまうので、ブログの記事をご紹介しておきます。

1797年夏、「親友」との出会い
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