あなたの中のジゼルを探す旅「ジゼル、またはわたしたちについて」稽古場レポート(シン・後編)
旅する演出家、黒澤世莉です。
大人の社会科見学「演劇はどうやってつくられてるの?」そんな好奇心を満たす
waqu:iraz(ワクイラズ)『ジゼル、またはわたしたちについて』稽古場レポート
は、歌も踊りも無いまま終わってしまいました。
「え? どういうこと? じゃあ何してるの?」
という方は、前回、前々回のレポートをチェックしてください👇️
なんでそんなことになっているのか、その秘密に迫るシン・後編です。
(実際は文字数書きすぎて2記事で収まらなかった)
出演者でタイトルロールのジゼル役を演じる宮﨑悠理さん、そして主宰者/演出家、のみならず、振付・脚本構成・出演などなどなど、出来ないことはないの? という肩書の多さの小林真梨恵さんのインタビューをお届けします。
ではさっそく、シン・後編に入りましょう。
今回ですべての謎が明らかになる!しらんけど。
「宮﨑の血が混じっているジゼル」宮﨑悠理さんインタビュー
私「普段は「ざきりん」と呼ばれているそうですが、どうしてですか?」
宮﨑悠理さん(以下、宮﨑)「元々、子ども向けのワークショップ(筆者注:演劇の手法を用いた学びの場の一種)で「ざきりん」という名前で活動していて、それがそのまま定着しました」
私「稽古場はどういった雰囲気ですか?」
宮﨑「めっちゃ体育会系。「はいいくよー」で、すぐやる。精神が体育会系。途中で諦めない。できるまでやる」
「言葉でもがんばってすり合わせようとはするけど「一回やってみるか」までがすごく早い。フットワークがメチャメチャ軽い。」
私 「確かに、現場を見た時にもそのフットワークの軽さを感じました。今回はタイトルロール「ジゼル」を演じますが、どんな経験をしていますか?」
宮﨑「不思議な感覚。私を良く知っている人は「出てた?」っていうくらい自分とはかけ離れている。メチャメチャ遠いふうには思われるけど、自分の中の言葉を使ってディバイジング(筆者注:集団創作の手法の一つ。詳しくは前編参照)でつくっている。自分が発した言葉だし、もしかすると自分自身が無意識に遠ざけている部分なのかもしれない」
「世界線が違う自分だな。宮﨑の血が混じっているジゼル」
私「2年間のリクリエーションを経て、特に変わったと感じるところはありますか?」
宮﨑「ラストシーンは初演からずっと変わり続けていて、毎回直前まで変わり続けている。いまもまだどう終わるか分からない。バチって決まらないほうがいいのかな・・・分からないところで考え続けることが、いいんだろうな」
「(分かりやすい)結論は出せないよな、っていうことが、チームで共有できているのが、いい」
私「観客にむけて、今回の激推しポイントをおしえてください!」
宮﨑「スピード!この人間の目まぐるしく変わっていくスピード、こんなに深く練り上げたものを、このスピードで見せられるのか、って驚いてほしい」
「もし、お話についていけない場所があっても、大丈夫。いつでもどこからでも戻れるから、観客の方が見たいように楽しんでもらえたら」
稽古場で他の出演者のエチュード(即興演技)をみて、大喜びしていたのが印象深い宮﨑さん。人のシーンを興味深く観ている俳優は、いい俳優だということわざがあります(作ったのは私です)。宮﨑さんはいい俳優なんだろうと感じました。
「あなたのジゼルか、あなたのウィリが必ず見つかる」小林真梨恵さんロングインタビュー
私「今回のチームの印象は?」
小林真梨恵さん(以下、小林)「横浜のときはバンドみたいな感じでした、曲を作っているのもあってかな? 劇団ではないけど、waqu:iraz(ワクイラズ)から派生した、ジゼルというユニットとかカンパニーっていう感じがします。親戚の集まりみたいな感じ?」
私「(親戚の集まり・・・?)」
私「演劇を作るチームとしては、どんな感じでした?」
小林「最初は大変なところもあった。若尾さん、金川さん、宮崎さんと一緒にディバイジングで創作するのははじめて。演劇づくりにおける共通言語や、ディバイジングでやっている「わたしたちにとっての当たり前」みたいなものが、当たり前だけどなかなか伝わらなかった」
「ディバイジングは自由度が高いし、どこに行くかわからない状態で始める。普通の演出家、戯曲があってゴールを決めるのが演出家の役割なんですけど、そういうやり方ではない作り方をしたい。わたしは、そういうやり方ではないクリエーションの関係を作りたい」
「この作り方は、めちゃめちゃ俳優への負荷が高くて、俳優が自分で決めなきゃいけない部分が多い。普段俳優が決める範疇じゃないところも入っている。そういう共通言語を獲得するまでがすごく大変だった」
私「今回ジゼルをモチーフにした理由はなぜですか?」
「ジゼルをやりたかった理由は、アルブレヒトが情けなかったから。主人公の恋人の立場のヒーローが、めちゃめちゃ情けない。いままでオールフィメール(出演者全員女性)で、ディバイジングでつくっていたけど、男性の生きづらさや、男性の弱さを描きたいな、と思ったところに、アルブレヒトが思い浮かんだ。ジゼルに守ってもらったり、嘘ついて美味しいところもっていこうとしたり。なんでそういうことしちゃうのかな、というところを、チームやお客さんと一緒に考えたかった」
「ジゼルはずっとやりたかった。最初は八戸ポータルミュージアムはっち(筆者注:青森県にあるアート施設)の公募企画にジゼルの企画を提出して、それが採択されて、上演できることになって。それで、せっかく作ったから、YPAM(筆者注:神奈川県で開催されるアート見本市)でやったという経緯があった。もともと長い期間で始めようと思ったわけではなかったんだけど」
「八戸は6月くらいから、頻度は高くないけど話し合いを始めて、9月の本番があって。また、間があって12月からYPAMに向けて作りはじめて。半年以上同じメンバーでクリエーションしたことがすごく良くて。それから、年末の段階で、廿日市のEMIフェス(関森絵美さんの凱旋公演、詳しくは後編参照)の話があったので、廿日市でもジゼルをやりたいね、それであれば東京でもやりたいね、という話になった」
私「今回のジゼルがリクリエーションを繰り返していくことになったのは、様々な偶然が重なっていったからなんですね。振り返ってみると、どんな変化がありましたか?」
小林「共通言語が当初より全然できている。でも、全然わかんないところもある。全然わかんないところが明確になったことで、お互いのストレスが減ってきた感じがある。お互いの理解が進んでいる、コミュニケーションにおいて各々の納得の仕方が共有できるようになってきた」
「最初に言っていた、親戚みたいってのはそういうところかな。全部に共感されなくてもいいけど、でも全員が納得した状態では進めたいな」
私「「分かりあえなさ」をはっきりさせることは、創作の上で大切なことですよね。共通言語が深まったことで、リクリエーションはどんな作品を生み出しそうですか?」
小林「(わたしたちの作り方は、)エチュードから台本を起こして、それを元にしてみんなでテキレジ(筆者注:台本をカット、修正していく作業のこと)をやる」
「昨日も面白かった。台本をテキレジして、いくつかのシーンを持っていった。(ドラマトゥルクの)オノマさんと出演者と一緒に、どう改稿していくか話し合っていましたが、結果「あれ? 全部いらないね!」ってことになって、カットした。それから新しいシーンも作りかけたけど、結局それも不要だと分かった」
「この時間を経て、(既存の)シーンの見え方が変わったり、(既存のシーンの)出演者の演技の解像度が上がったりして、話し合いの時間やカットになったシーン稽古もすべて、無駄にはならないと実感してる。今は、出演者が自由に(演技のプランを)チョイスしていく段階に入っていて、演出家としては見ていて面白い。作品が育っていく、生い茂っているなあ、茂りすぎたらまた刈り込めばいいかな、と思ってる」
「作り方にも作品にも、明確な答えが出ない、「これが正しい」と断言できることもない。
ただ、わたしたちが答えを探していく過程が、作品の強度を上げるし、観客が一緒に答えを探す体験につながるきっかけになる。それがリクリエーションを重ねた結果かな」
「物語として落とし所は探さないといけないけど、最終シーンは公演ごとに全然変わっていくし、今回もどうなるかはまだ全然分からない」
「正解があるわけではないから、お客さん自身も楽しみながら、自分の中のジゼルについて、私たちと一緒に考えてもらえるような時間になりたいな」
私「じゃあそれを記事のタイトルにしましょう! いままでの『ジゼル、またはわたしたちについて』公演と今回の公演で、どんな変化がありますか?」
小林「(初演の)八戸から(今回の)東京を見たら、ぜんぜん違う作品になっていると思う。全公演ベストを尽くしているから、八戸は八戸の、横浜は横浜の、廿日市は廿日市のベストで、お客さんに良い作品を届けてきた。そのうえで、各地の観客に見てもらう経験が、作品の強度を強くする、観客の反応に教えてもらっている。その過程を経たリクリエーションの結果、だんだん蓄積されて、豊かになっていくものがある。同時に、作品の構成そのものも変わっている」
「演劇人には、初日の幕を開ける(筆者注:品質を高めて上演すること)のが大事っていう気持ちがあるじゃないですか。でも、幕が開いたら数日間で終わってしまう。作ってすぐに無くなってしまうのはもったいない。今回は2年間同じテーマでやれて、贅沢だった。きっかけは偶発的だったけれど、こういう作り方がコンスタントに出来るかわからないけど、またやれたらいいなと思っている」
私「最後に、ジゼルの激推しポイントを教えてください!」
小林「俳優を観てほしい。それぞれがぜんぜん違うんですけども、すごく純度が高く作品に向き合っている。その俳優を観ている中で、あなたのジゼルか、あなたのウィリが必ず見つかるので、見つけてほしい。」
「チケットを買ってください!!!音楽ライブみたいなものなので、現地で観たほうが絶対面白い。DJするよ!曲も作るよ!」
「観客の記憶をあぶりだす小林真梨恵」取材を終えて
旅する演出家、黒澤世莉です。3記事にわたり、お付き合いくださりありがとうございました。読んでくださったあなたも優勝です。
あなたの中のジゼルを探す旅「ジゼル、またはわたしたちについて」稽古場レポート、いかがでしたでしょうか? 社会科見学気分になれたでしょうか。ちょっと専門的すぎて分かりにくかったでしょうか。よかったら感想をお寄せくださいね。
私の稽古場見学の感想で、このレポートを締めたいと思います。
まず最初に、居やすかったです。
多かれ少なかれ、稽古場に見学でお邪魔するときに緊張はするものですが、その緊張の幅が少なく済みました。緊張が少なく済んだのは、場作りの安全確保が上手くいっているからでしょう。それは作品の質を上げることにプラスになっていたと思います。
第二に、面白かったです。
安全な場なので対話の質が上がります。危険だと誰も率直な言葉は出さないし、率直な言葉でないと豊かな対話は生まれません。上司がすぐ威圧してくる職場を想像すると分かりやすいでしょう。Googleの調査でも、生産性の高いチームの共通点は、個々人の能力や学歴ではなく、チーム全体の発言量が均一な傾向があるかどうかである、というデータが出ています。質の高い対話が行われている場を見学するのは、面白いですね。
第三に、エチュード(即興演技)の質が高いなと思いました。
やはり共通言語がある点が強いし、それはリクリエーションを繰り返した、すなわちスクラップアンドビルド(つくってはこわすこと)を繰り返したからだと思うんですが、思い切りよく行動して関係していけているなと思いました。俳優だからそれくらい出来るだろ、と思う方もいらっしゃるかも知れませんが、エチュードはそんなに簡単ではないし、質を上げるのはさらに大変です。
第四に、小林さんの「分かりやすくしたくない」というこだわりを深堀りしたかった。
稽古を見学して、小林さんにインタビューして、少しわかったことがあります。小林さんは、観客の前に現れるパフォーマンスと、観客の記憶や経験を、いかに結びつけて、観客の内面にテーマを想起させるのか、ということに、関心があるのだと思いました。そのため、俳優と役が、できるだけ抽象的な存在であるほうが、観客自身の記憶や経験にアクセスしやすい、と考えているようでした。
そのこだわりと試行錯誤は、2年のリクリエーションを経て、どのように成熟したのか? それは東京公演で明らかになるので、公演が楽しみになりました。
ミュージカル、に分類される稽古場で、歌わない踊らない一日が、とてもwaqu:iraz(ワクイラズ)らしかったです。ミュージカルは彼らにとって目的ではなく手段であり、それを通して観客の記憶をあぶりだしたいんだろうと思いました。
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11/14(木)15時は、アフタートークイベント(終演後20分程度予定)で黒澤世莉が喋ります。小林さんの演出としてのこだわりがどうなったのか、より深く突っ込んでいく予定ですので、気になる方はこの回に起こしください。
では重ねて、あなたの中のジゼルを探す旅「ジゼル、またはわたしたちについて」稽古場レポート、最後の最後までお読みいただき、ありがとうございました。
旅する演出家 黒澤世莉
公演情報
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