お天道様ノ掴み方- ⑨
「いっただっきまーす♪」
(場面 変わる 昼休み 屋上)
昼休み-
僕にとっては、よくやく「憩い」の時間がやってきた。
既に、僕らにとっては相変わらずといった光景なのだが、今日は「非常に天気が良い」ということなので、僕たちは、この学校の屋上で、日がな一日、昼食をとろうとする計画に話が持ち込んだ。
面子は、もう言わずもがなで分かるであろう、響、健の、計三人だ。
僕らは、四時限目に「これでもか」というぐらい奪われてしまった体力と共に、その「空腹感」を満たすため、とりあえずは、響と僕は「持参してきた弁当」を。健は、おそらく購買で買ってきたのであろう、その惣菜パンに、一人一人、箸を、口をつけては、黙々と食べ始める。
「美味しいね♪」
・・こいつはいつも楽しそうだな。
まあ、それが響の、正直言って、良い所なのだが。
「やっぱり、購買といえば焼きそばパンだよなあ!」
まあ、正直、わからなくもない気がする。というより、寧ろ、わかるような気さえする。
僕は、早速、朝早く用意してくれたであろう「母さんご自慢のお手製弁当」へと、その食欲で、ありついた。
中身は、そう・・。まずは、海苔の下におかかを敷いた、この「ご飯」だ。そして、シャケの切り身に、卵焼き。肉類は、ソーセージに、ミートボール。野菜は、ブロッコリーに、最後は黄色い「沢庵」なのである。ん〜。絶品だね。
母さんの卵焼きは、お昼までにエネルギーを使ったのであろうかと、気を利かせてくれていたのか、何だか少し、しょっぱ目だった。
僕は、ご飯を頬張り、ぽりぽりと、黄色い沢庵を一人齧(かじ)る。そして、麦茶を飲み、その渇いた喉をサッと潤すと、時折おかずを挟んでは、その繰り返し。
日がな一日だが、やっぱりこの、昼休みの昼食を摂っている「この時間帯」だけこそが、学校にとって、僕にとって、唯一の、一番の出来事のような感じをする。
僕は、心の中では、内心「うんうん」とそれだけ頷くと、三人で、ところどころ会話を挟みながら、ご飯を頬張り続けていた。
すると、そんな矢先、友人である健が、こんなことを言い出してきたのである。
「ところで、夕よ?一昨日助けた、その・・猫?ってやつは、その後、結局、どうなったんだ?」
「猫?」
・・やれやれ。またその話しか。全く、人気者だな。正直、猫も、僕も。
「知らないよ。あの時・・だから、車に轢かれそうになったあの時、僕は、夢中で走ってたけど、ぶつかってからは、正直、覚えていない」
「へえ〜・・しっかしッ、お前も珍しいことをしたよなあ?まさかお前が、猫を助けてそのまま、まさかそのまま、あの世行きだなんてよう♪」
「あの世には行ってないぞ?」
まあ、正直、半分行きかけたんだけど、な。だから正解としておこう。まあ、嘘なんだけど。
僕は、冗談半分ながらも、実際には、半ば確信をついていたこと健に対し、いつもの様につっこみをしてはボケ倒すと、響のやつが、その会話に割って入ってきたのだった。
「あら、良いじゃない?そういうのって、素敵よ?」
相変わらず、乙女だねぇ。響は・・・
僕は「へいへい」と言わんばかりの、その手の平をパタパタと平つかせると、二人の会話に、適当な相槌を打つ。
・・正直、あの時助けた猫なんて、もう、どこにいるのかも分からない。ただの野生の野良猫か、それとも、誰かが飼っていた猫が、たまたま、逃げ出したとか、まあ、きっと、そんなところだろう。多分。
「ねえねえ?結局、この間夕涼みには、二人とも行けなかったんでしょう?だから今度は、もし良かったら、三人で行こうよ♪」
「おっ!良いねえ!それ、俺も乗ったぜ!」
「やったあ♪約束ね?」
「ふう・・。やれやれ・・」
僕は、響の提案してくれた「夕涼みを次回の際に持ち越す件」を軽く了承したあと、そろそろ終わってしまうであろうこの昼休みにさよならを告げては、昼食の片付けを終えると、同時に、三人でまた、教室へ戻ろうとしていた。
が、その時-
「-ッ!?」
僕は、突然、妙な頭痛に襲われる。
「・・いつっ。・・え?」
「どうしたんだよ?夕」
「・・いや、何でもない」
「?」
不思議そうな顔を浮かべる健のやつは、どことなく僕を、心配してくれているかのような、そんな感じだった。
「なあ、大丈夫か?保健室に行くか?」
「いい・・・」
心配そうに見つめる健と響をよそに、僕は「ただの気のせい」なんだと、内心、そう思うようにしていた。
さ、残すはあと五時限目だけだ- それが終わってしまったら今日は早いとこ家に帰って、さっさと寝よう・・・