
お天道様ノ掴み方- ①
(場面 変わる 現在)
それから- 何年目かの夏。午後- 昼下がり。
今日は、日付けにして、7月7日だ。
幼い日の出来事なんて当に忘れていた僕は、
今年で17歳になる、誕生日を迎えていた。
(風鈴の音)
(今日は、七夕か・・)
そんなことを思いながらも、連日、暑い日が続いていた-
気温は- 摂氏、37℃.
今年も、まだ、まだ、 まだ、もう少し、暑くなりそうな予感がしている。
(場面 変わる 道中)
「はあ。はあ。はあっ。」(自転車をこぐ音)
場所は変わり、7月7日。都内。某所-
僕は今日、友人と「夕涼み」をしに、地元のお祭りごとに待ち合わせをするため、自転車を走らせ、約束の待ち合わせ場所に向かっていた。
背中には「うちわ」を差し、腰の後ろポケットには、本日はゆうに過ごせるであろう所持金を持ち・・服装は、そう・・、この夏、いつもと変わらない、白のTシャツに、ブルーのジーパン姿だった。
空は晴れていた-
「はあ。はあ。・・・フゥー・・!」
(自転車を停める音)
息を切らせながらも、待ち合わせ場所に着く。
どうやらまだ、誰もいない。 僕が一番乗りのようだ。
待ち合わせ場所に立っている時計を見ると、今は、現在、午後、16時20分。
30分に待ち合わせをしていた僕は「これはしょうがないな」と思いつつ、走らせてきた自転車を、路肩の樹の下(もと)へ寄せる。
ただ待っていてもしょうがないので、「何か飲み物でも買うか」と、そう思いながら、 近くの自販機へと、足を赴いた。
(自販機の飲み物を買う音)
「(ゴク..ゴク..) ・・ふぅ」
僕は、飲み物を何口か飲み終えると、 パタパタとうちわを仰いでいた。
「暑いなあ・・」
ありきたりな言葉を呟いてから、額の汗を拭(ぬぐ)い、 ふと、我に返ると-
「・・?」
何故だか、妙な「既視感」に囚われていた。
何だろう・・この既視感。こんなデジャヴを、前にも感じたような・・
僕は・・と、ふと、自分の記憶を遡る・・・
うん・・気のせいだ。そう思い「確信」をした。
きっと、暑い中自転車をこいできたせいか、 おそらく「頭がのぼせ上がった」に違いない。 そう決め込み、頭を少し下げ、目を瞑る(つむ)る。
一瞬の間だが、こうしているだけでも、結構、のぼせた頭も冴えてくるものなのだ。
「・・さて」
僕は、キョロキョロとあたりを見回していた。
・・何の変哲も無い、午後の、普通の、夕方前の昼下がりだ。
「ニャ〜」(猫の鳴き声)
(野良猫か?可愛いな)
(スリスリ.. スリスリ.. スリ...)
・・僕のことが気に入ったのか、猫は、足元に、頬を擦り寄せてくる。 僕は、軽く頭を、撫でてやった。
「ニャ〜」
餌でも求めているのだろうか・・しかし、僕は、あいにく今は、そんなものを持ち合わせてはいない。 残念だが、諦めてくれ。ゴメンな-
(タタタタタタタタ..)
餌もくれないのかと踏ん切りをつけたのであろうか、その「白と茶色の野良猫」は、右肩の路地の方へと、去っていく。
が、その時-
キキー!
「危ない!」
ドンッ-!(車と何かがぶつかる音)
僕は、咄嗟に走り寄り、ついつい、猫を「助けてしまう」 -これが、何の変哲も無い、ある夏の、そして「最悪の日」の、幕開けであったのだった。