
お天道様ノ掴み方- ②
-オーイ
「・・・・」
「おーい」
・・・?
ふと、目が覚めた-
ここは一体どこだ・・
何だか・・和らげな風を感じる・・・
・・「ここは一体どこだ?」と言う前に、まず、目が開かない・・。「先程」の衝撃のせいなのだろうか・・
「オーイ」
頭が痛く、重い・・・。ぼんやりとしながら、僕は、呼んでいる方へ顔を傾けてみると・・
「お?やっと気がついたのじゃ」
「・・?」
僕が気がつくと、そこには、僕が、本来ならば夕涼みの際に使うであろうだった「うちわ」を持ち、どこか、申し訳なさそ〜な程度に「パタパタ」と仰いでくれている、正直、あまり認めたくはないが、可愛らしい〜格好をした、「金色の長髪をした、少女」の姿がそこにはあった-
「よ!」
「・・?えと・・・」
・・積もる話しは夢の島ぐらいには山積みなのだが、彼女はこともあろうに、それを「よ!」の一言で片付けてしまうぐらいの・・なんというかこう「よく分からない、説得力」みたいなものがあった。
だからか、なのか、ここは一つ、僕も冷静になり、大人になった対応で、声を出す。
「・・君は?」
「儂(わし)か?儂はのう・・そう。未来人なのじゃ」
「み、未来人・・?」
「そう。未来人」
「・・・」
「・・ドラえ-」
「未来じ〜ん、ぱ〜んちっ!」
「のあ!」
静寂にいたたまれなかったからによる、僕の気の利いた言葉に対し、間髪を入れずに遮ってきた彼女は、ついには僕に、一発お見舞いしてくる。
「か、軽いギャグじゃないか・・」
「妾(わらわ)はの、ふざけるのは嫌いなのじゃ」
ああそうなんですかい・・
「・・・」
「・・・?」
静寂が続いた。
そして。
「ちゅ〜」
「のああっ?!」
なんと、彼女は- 咄嗟にその「唇」を寄せてきた。
あまりの展開に、僕は、不自然な態勢で、体が飛び起き、はね上がる。
「な、何をする!」
「何をとは失敬なっ。王子様とお姫様が、愛のキスで目覚めるのは、おとぎばなしでは有名な展開であろうに!」
目覚めたあとなんだよ・・
「意味がわからない!」
と、僕は、彼女に、そう言ってのける。
「まあ、その、妾はの?そなたを護ってやるべく現れた、そう。『幽霊』みたいなものなのじゃ!先ほどの失態は、どうか忘れてたもれ?」
「護れてねえじゃねーか!」
「おやあ?」
可愛いらしい顔で、彼女はおどけてみせる。
「僕は、確か、車に轢かれたはずだったぞ」
「・・それは、その・・間に合わなかったのじゃ。ゴメンのう」
間に合わなかった?一体、なんなんだ?こいつは・・
彼女は、申し訳なさそうに俯くと、僕にそう答えた。しかし、そうした姿を見た瞬間、僕もハッと我に返り、いかんいかん、こんな子供姿の者につい、逆上をしてしまったと、慌てて後悔をする。
別に、彼女のせいにする気など、さらさら無いのだ。
「僕の方こそ・・その、すまないな」
「良いのじゃ!若う者!それよりもな?話を元に戻すが、実は、これは、そなたの事が落ち着かぬ事には、お主は無事では帰れないんだぞよ」
「・・一つ気になっていることがあるんだが・・何故そうも、語尾がころころと変わっていくんだ?」
「気にするな!」
「・・そ、そうか。・・なら、とりあえず、ここがどこなのか、教えてくれ」
僕は、ことが当事者なら誰でも気になるであろう、その「的を射た」質問を、彼女にぶつけてみせる。すると、彼女は-
「う〜ん、そうじゃのお。そうじゃのお〜・・ここはのう、簡単に言えばそうじゃのお〜・・。うん。ここはな?この世とあの世を司どる・・そう。生と死の「狭間」のような空間なのじゃ」
「生と死の狭間・・?って、ぼ、僕は・・ひょっとして、死にかけているのか?!」
「そのようじゃの♪人間界では『三途の河』などと呼ばれておるようじゃが」
「へえ〜・・どうりで辺り一面綺麗なお花畑け・・って違う!そうじゃない!ぼ、僕はっ!死にかけているというのか?!」
「そうなのじゃ!しかもの?ここの、ここまでの出来事は、実は、偶然ではないのじゃ。そう・・。そなたはの?誘(いざな)われたのじゃ。怨念が行き場を失い、魂の成れの果てと合わさった・・、そう。未来ではもう、異形の形態種となってしまいおった、その、通称『アヤカシ』にの」
「・・アヤカシ?」
「そう!簡単に言えばの?お主は、あの時、アヤカシによって『殺される』筈じゃった。それを可愛いそ〜にと見兼ねた儂は、そなたを死から救ってやった!という訳なのじゃ♪」
「・・それは、ご丁寧に・・ありがとう・・・」
♪マークまで付けてくれた彼女の笑顔は、それはそれは、何故か楽しそうで、他ならない。
彼女が、何故、この時僕を助けてくれることになったのかは、残念ながらこの時の僕には、全く聞く余地がなかったのだ-
「更に・・そなたはのう?この世とあの世を行き来する、死の権化- 人間の世界においては、簡単に言えば『死神』みたいなもに該当するのかの?お主は『ソレ』に目をつけられておる。-最悪な事にの。そして、そなたが彼奴(きゃつ)にまで手を出されたのは、ウチの失態であり、ウチの責任なのじゃ」
「死神・・し、死神が、僕のことを『あの世』へ連れて行こうとしてる・・・?」
「うん」
「うん-」 じゃねーよ!
「それを、実は失敗しながらも、妾が助けてあげたのでした!てへ♪っていう、お話しなのじゃ!」
「(てへ..?)・・に、にわかには信じられないな・・し、死神が、本当にこの世に存在するなんて・・・」
「何じゃ、信じておらんのか。そなたは。『モノノ怪』や『神』といった類の者たちのことを」
「当たり前だ・・」
「フンッ!神仏に対する、慈悲や仏の心の無いやっちゃの〜?まあそれでも、時が来たらわかるようになる筈じゃわい。まあ、いずれはな?」
「・・いずれ?」
僕は、彼女に翻弄されるがままだった-
何が何だか、正直、わからない・・・
「・・時にそなた『名前』は?」
「え・・な、何だよ、急に」
「いいから、名を名乗れと言っている」
「え、ぼ、僕は・・」
この時、僕は、その、全くもって得体の知れない人間のような誰かに- そう、彼女に、にわかにはだが、信用をしかけていたのかもしれない-
信じる者は救われる。なんて、言うけれど。それはもしかしたら「本当にある出来事」だったのかもしれない- と、この時密かに、気付きはじめていたのだから・・
「-『東雲 夕』(しののめ ゆう)、東雲、夕だ」
「東雲か・・良い名じゃのお?名は、夕か。そうか。そうか・・。儂とおんなじ読みなんじゃの」
「あんたは一体、何だって言うんだ・・」
名を名乗るならまず自分から。なんていう言葉もあるけれど、僕は今、正直、何故か気になってしまっている彼女の名を、先程の言葉とは立場も打ってかわって真逆になるのだが、逆にその名を名乗らせる。
「・・妾はの?通称、この、天の川銀河系内における『恒星』の一つ- その名も、太陽を化身とする神にあたる存在- 人呼んで『陽ノヒカリ 妖』(ヒノヒカリ ユウ)- そうじゃの。妾のことは、ユウ君と呼んでくれたもれ?」
「・・ユウ君?」
「オウ♪ハンパじゃないぞよ?」
彼女は、その見た目の年の頃には似つかわないであろう、非常に妖艶な眼差しで、僕にその名を告げた。
そして-
「契約、成立なのじゃ」
「ハア?!」