お天道様ノ掴み方- ⑧
(場面 変わる 校舎 運動場)
時間は過ぎ、四時限目が始まった。
科目は、そう。「体育」だ。
「これで次は昼休みだ・・ヨシ・・・」と、僕は、三時限目までに浪費していたであろうその体力に向かって、体へと言い聞かせる。
僕は、教師に自分の出席番号を呼称されながらも「半ば体育なら楽勝だ」と、正直、意気揚々でいた。
だが、しかし-
「えー、本日は天気が良いので、長距離を始める!皆あ、気い抜かるなよー?」
え〜・・・マジで・・?マラソンかあ〜・・
正直、僕にとっては「一番ヘビーな内容」がやってきてしまった。体育教師は、ただ生徒たちを見守るだけなんだから、楽で良いよなあ・・
「-では!位置について!よーい!」
パァンッ-
教師の鳴らす空砲の合図と共に、僕たちは、一斉に散り散りと駆け始める。「はっ。はっ。はっ」と、小走りに息を切らせながら、僕たちは、懸命に、ただひたすらに、目標の到達点である「1,500メートル」にまで足を動かす。
「これが終われば昼休みだ」と・・自分に、そう、言い聞かせて。
「よーし!皆あ!休憩だー!」
「ハア・・ハア・・ハア・・」
皆が同じように息を切らせながらも、僕たちは、運動所の端に置いてある水飲み場へと、その疲れた足を赴かわせる。
額にかいた汗たちを、正直、出始めはこの夏のこの気温で生温くなっているのであろうその水で洗い流し、冷えてきた丁度良い時を計らって、渇いた喉を、ゴクゴクと潤してゆく。
「フゥー・・」
何て暑さだ・・全く。
この時ばかりは、抜け殻から出てくる、成虫になったであろう「蝉」の気持ちにも、正直、共感の意を唱えられるね・・・
(蝉の音)
蝉時雨が、ひたすらに暑いこの夏の日差しを、更に輪をかけて掻き立てているような気がして、他ならなかった。
僕は、額のおでこに手のひらで小さな影を作り、その日差しが直接目に当たらないようにしていると-
(ガヤ)
休憩場に腰をかけていた、今はもはや半分女子生徒たちの観客と化している男子生徒たちが、一斉に、何故かどよめきを始める。
「-っ!」(響、バーを飛び越える)
「・・・」
「なあ、見たか?今。響ちゃんの胸、結構揺れてたよな?」
「ああ。しかもさあ、響ちゃんてさあ、結構・・可愛いよなあ〜。眼鏡を外す時の体育が、俺、最近の唯一の楽しみなんだ?」
響か・・
響は、確かに、クラスの男子たちからは多少もてはやされるぐらいには、容姿は、その、悪くはなかった。そして、こう言っちゃなんだが、確かに、胸も、でかい- 飛び級だね。
「やるう〜・・」
そんなことを思っていた、矢先-
「ぃよッ!ゆーうッ!何お前見惚れてるんだ?まさかあれか?女の、あれか?」
適当に、ただポケ〜っと、響を眺めていただけの僕に対して、友人の健が、僕の肩に「ガッ」と、その、筋肉のある立派な腕を、寄せてくる。
・・そういえば、こいつ、このくそ暑い中に、ただの少しも息も切らせずに、ひったすら揚々と走ってたっけ・・・。一体どこからそんな力出てくるんだ?こっちはもう疲れて、汗もかいたし、正直ヘトヘト、いやベトベトだってーのに。
「良いじゃないか・・別に」
ニヤニヤと話しかけてくる健をよそに、僕は、その疲弊しきったであろう重い腰を水飲み場に下ろすと、授業に懸命に勤しむ女子たちの光景を、クラスの男子たち同様に、ただただ普通に、眺めていた。
「よし!じゃあ、もう一周始めるぞー!」
マジかよ!と同時に、ガヤガヤと面倒くさがる男子たちも、僕も、少しは戻ってきたのであろうかというその体力で、またもう一度重い腰を持ち上げると、同時に、教師の一斉の合図音と共に、また一斉に、走り始める。
「はあ。はあっ。はあ-」
さあ、次からは、お待ちかねの昼休みだ。
腹も減ってきたしね。こりゃ。