お天道様ノ掴み方- ⑥
「真夏の果実ハ-」
(朝 鳥の囀り)
..ピピピピ..ピピピピ..ピピピピ..ピピピピ(目覚まし時計の鳴る音)
翌朝- 午前、7時半
昨日セットをしておいた目覚ましの時計の音が、僅かながらに聞こえてくる-
ピ..!(目覚ましを止める音)
「朝か・・」
気だるいが、ごく至って普通な、夏の朝が始まりを告げた-
「おはよう〜」
「遅いわよ?もう何時だと思ってるの?」
そう言われながらも、僕は冷蔵庫の扉を開けた。
「(ゴク.. ゴク..) ・・フゥー・・!」
朝一で飲む冷えた麦茶が、僕の渇いた喉を潤していく-
「もう!何そんな行儀悪いことやってんの!ホラ!こっち来て、早く朝ご飯食べちゃいなさいら?」
「・・へ〜い」
僕は、黙って、黙々と、用意された朝食にありついた。
母さんの作る卵焼きは、少しだけど、甘い。こんがりと焼かれたトーストの良い匂いが、僕の食欲を注いだ。
そう言えば・・昨日は昼から何も食べてなかったっけ・・
そんな事を考えながらも、僕は、グラスに注がれた麦茶を勢いよく飲み干すと-
「行ってきまーす」
健全な男子高校生なら誰もが分かるはずであろう。朝一の、そう。通学だ。
いつもと変わらない風景を眺めながら、近所の人に軽い挨拶を交わして、僕は学校へと向かいながら、歩いて行く。
すると-
「ぃよ!夕!やあっと退院だって?昨日はお疲れさん!でさあ、結局どうなったんだよ?いや、あれから心配でさー。昨日何度もお前んとこに連絡したんだぜ?」
「健か・・いや〜、実はさ〜・・・」
昨日あった出来事を、通学の途中、毎度毎度これでもかと出くわす友人の健に、とりとめもなく話していた。
「猫?!猫のせいで事故に遭ったのか?!バカだなァお前!」
「いやあの時は必死でさ・・」
「それで?その後どうなったんだよ」
道中、別段、いつもの感じだった。ただ一つ何か違うことがあるとすれば、そう・・なんというか、何かこう「もう1人」足りないような気がして他ならない-
「おはよっ!ねえ?昨日はどうしたの?何か、色々大変だったって健君から聞いたけど」
「・・・響(ひびき)か。おどかすなよ」
そんな事を思いながらたらたらと歩いていると・・不意に肩を叩かれ、と同時に、僕の頭をよぎっていた不自然さも、解消をした。
-彼女は、末永 響(すえなが ひびき) 僕の、同級生だ。
「響ちゃん聞いてくれよ!コイツさあ!昨日事故に遭ってさあ!」
「ええ?事故?大丈夫なの?それって」
「大丈夫だよ」
ニヤニヤと事を話したがる健に、やれやれと言った感じの僕に対しては、響は、とりあえずは、僕の健康を心配してくれているようだった。
「猫をな?お陰で轢かれたんだよな!」
「うるさいなあ・・」
「猫ちゃん?猫ちゃんがどうかしたの?」
「何でもないよ」
二人とのやりとりに対し、適当に相槌を打つ。普段通りのように会話をしていた僕ら三人は、そろそろ学校が近づいてくるのが、目に見えて分かってきていた。
「そろそろ学校だね!」
「ケー!また一日、かったるい授業が始まるのかぁ!」
「それには僕も同感だな」
「もう。そんな事言っちゃダメだよ」
キーンコーンカーンコーン.. (学校のチャイム音)
そんな中をよそに、遠くからでも微かに聞こえてくるであろう、校舎の鐘が、鳴り響いた。
「マズい!始業のチャイムだ!後残り5分前だ!」
「やべっ!」
「急がないと!」
始業の開始を告げる鐘と同時に、僕たちは突如、猛ダッシュで教室を目指し始める。
日がな一日の、幕開けである-