この時代にデザイナーとして生きるために
マネーフォワードでCDOを務めてから2年3ヶ月が経ちました。この間に約30名のデザイナーは70名以上に増え、グッドデザイン賞4件、Japan Branding Awardsの受賞など、社外からの評価もいただけるようになりました。国内No.1のデザイン組織を目指すという目標にはまだ届いていませんが、BtoB、BtoCの両方にわたる40以上のデジタルプロダクトを安定的にデザインできる組織は国内でも稀な存在になってきているかもしれません。
まだまだプロダクトのデザインもクリエイティブもやりきれていない自覚はあって、これから一層、質を高めていかなくてはいけないと感じています。私たちは感動を届けられるようなレベルのデザインをしていきたいのです。
広がるデザイナーの役割
さて、今年は私自身のキャリアについて、取材をいただく機会もありました。「高度デザイン人材のキャリアオーナーシップ獲得要因」調査レポートではとても丁寧にインタビューいただいたのでぜひご覧になってみてください。私も皆さんのキャリアを知ることで勉強になりました。このレポートで見えてくるのは、ときには遠回りにも見えるようなさまざまな経験が、デザイナーのキャリア形成につながっているということです。
近年、デザイナーの役割は大きく広がりました。このnoteはマネーフォワードのデザイン組織のアドベントカレンダーの最終日に書いていますが、今日まで24日間の記事のタイトル一覧を見るだけでも、その幅広さを垣間見ることができます。
組織デザインから始まり、ユーザーリサーチ、設計、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、ブランドデザイン、デザインマネジメントなど、幅広いテーマが並んでいます。マネーフォワードのデザインnoteは明確な編集方針を持たずにやっているのですが、これだけ幅広い内容になりました。(ちなみに、社内でアドベントカレンダーの参加者を募集したら数時間で25日分埋まりまして、みんなの熱量の高さを感じています!)
カオスと向き合い抽象化する力
4月にCXO・CDO超会議で深津さんとお話ししたときの言葉がとても印象的でした。
なるほど、デザインの役割は広がっていますが、そのような定義は共通しそうです。グラフィックデザイナーであれば、目に見えないメッセージというカオスを整理し見える形にすることで最小化するのでしょうし、プロダクトデザイナーであれば、人それぞれ違う使い方というカオスを体験設計によって最小化するのだと思います。僕もCDOという掴みどころのない役割を担っていますが、ときには経営合宿をファシリテーションすることで、経営課題というカオスを整理したり、デザイン組織をデザインすることで、カオスになりがちなプロダクト開発を整えています。
ではカオスを最小化するには何が必要なのでしょうか?アンコントローラブルなものをコントローラブルにするための仕組みやフレームワークの設計が重要ですが、そのためには幅広い視点と抽象化する力が必要と捉えています。散らかったものごとを俯瞰して捉え、その中から本質を見抜く力です。これはそのやり方を理解するだけでは使いこなすことはできず、訓練が必要です。どんなにデザインを勉強しても、実践なくては良いデザインは生み出せないのです。
そして、この能力は応用が可能です。グラフィックをデザインする時の本質を捉える力は、組織をデザインする時にも応用できるのです。デザイナーの活躍範囲が広がるのもうなずけます。不確実性がより高まったこの時代、この能力はさらにいろんな場面で求められています。
経営は最大のカオス
デザイナーがキャリアを重ねていくと、デザインマネージャーへと進むケースは多いと思います。一方でデザインマネージャーから経営に進むケースは少ないようです。どうやらそこにはギャップがあるのかもしれません。
先述のレポートを読むと、高度デザイン人材と呼ばれるようなデザイナーは独立して会社を経営した経験があったり、何かしら事業を起こした人が多いようです。私自身も10年ほどデザイン事務所を経営してきました。ただ自分自身を振り返ると、そこでの経験よりも、新卒でスタートアップの社長室に入り、経営者と対話してきた日々が下支えになっているように思います。
経営というものはとても抽象的で、未来の姿を描きながら、さまざまな課題と向き合う仕事です。会社の中における最もカオスな仕事と言えるかもしれません。だからこそ、デザインが貢献できることも大きいと感じています。(弊社代表の辻さんと私の対談もぜひご覧ください!)
全体視点と中長期視点
では、デザイナーはどのように経営の視点を身につければ良いのでしょうか。経営視点を分解してみると、全体視点と中長期視点の二つが見えてきます。限られた部署や職種ではなく全社あるいは社会という単位で見る視点。1、2年ではなく3〜5年あるいはもっと長期で見る視点。こういったマクロの視点と日々の業務と向き合うミクロの視点を行ったり来たりしながら意思決定をします。
この感覚を身につけるには、実際に経営をやってみるのが一番ですが、そのような機会は気軽には作れません。それよりも日々の延長として行えるのは、経営者との対話です。先ほどご紹介したように、私自身も経営者との対話により、この視点を育んできたと感じています。対話の相手は経営者に限りません。自分よりも広い視野でものごとを見ている人や、自分とは違う職種の人と対話することでも、全体視点は磨かれます。
中長期視点は日々の習慣でも磨くことができます。例えば理想の未来を考え、そこからバックキャストでロードマップを描きます。それを定期的に振り返ってはアップデートするのです。私もCDO就任当時に3年間のロードマップを作成しましたが、半年ごとに振り返り、アップデートを繰り返し答え合わせをしています。大切なことは1回の答え合わせよりも、継続して行うことです。継続することで、徐々に中長期で実現すること、しないことの感覚が見えてきます。
誰もが経営者になる必要はありませんが、もしデザインを最大限に生かしたいのであれば、デザイナーが経営視点(全体視点や中長期視点)を身につけることに意味はあるはずです。神は細部に宿りますが、同時に上空1万メートルから見渡すような力を身につけたいものです。
やっぱりデザインは楽しい
さて、小難しいことを書いてしまいましたが、デザインは根本的に楽しいものです。何かをつくること自体が楽しいし、できあがる喜びや、それを誰かに届けて喜ばれる楽しさがあります。
ところで先日、マネーフォワードも参加したSaaS Design Conference 2022のキーノートでGoodpatchの國光さんがお話していたことが印象的でした。
このnoteを読んでいる人の中にも、もしかしたらデザインすることがつらく感じて辞めようと思っている方がいるかもしれません。私自身もデザインから離れている時期がありました。自分が一生懸命つくったものへのフィードバックが怖くなり、誰かのために何かをつくるのを辞めたいと思っていました。それでもしばらくすると、誰かに届ける喜びが大きくなって、再びデザインと向き合うようになりました。
デザインの役割が広がるにつれて、その期待に応えるのはますます難しくなっているように感じます。しかし人の成長スピードはそんなに速くないのです。だからこそ、私はデザイナー同士がお互いを助け、高め合って成長できる環境が必要だと思っています。マネーフォワードはそういったデザイン組織を目指していますし、同じような思いをもったデザイナーが集まっていると思います。一歩ずつ進んでいくのです。
デザイナーという仕事をしていると、苦しいこともたくさんありますが、だからこそ常にFun、つくることを共に楽しむ姿勢を忘れないでいたいです。
最後に
外から見ると「マネーフォワードのデザイン組織は完成されている」と言ってくださる方がいますが、そんなことは全くないです。中に入っていただくとよくわかります(笑)まだまだ整っていないことが多いですしカオスです。というよりも、カオスと向き合うチャレンジをしています。マネーフォワードは数多くのプロダクトを体験の一貫性が求められるシングルブランドで提供していますので、そこには難しいチャレンジが伴います。さらに開発のグローバル化も進んでおり、グローバルスタンダードなデザイン組織を目指すフェーズにいます。この新しいチャレンジを共に歩んでいただける仲間を求めています。
徒然なるままに書いてしまいましたが、そろそろ終わります。Money Forward Design Advent Calendar 2022もこれで最終日です。25名のデザイナーがそれぞれの視点からそれぞれの考えを書き綴りました。ぜひ年末年始にひとつでも気になる記事があれば、読んでいただけると嬉しいです。この時代にデザイナーとして生きるあなたに、このnoteが、このアドベントカレンダーがデザイナーとして前へ一歩進むきっかけになることを願っています。