伝説のウィザード/新たに
深く堕ちていく。不思議なものが体を包み込んでいくような気持ちの悪い感触がする。
「覚悟を決めたのなら、そうしよう」ブレストンの声が小さく聞こえる。そこからは、覚えていない。すっと眠るように。
地下室で目覚めた。なぜこんなところにいるのかがわからない。私が寝ていた机にはメモがあり、そこには「実験は成功し、君は比類なき力を手に入れた。私の事は覚えていないだろう。君はさすらいの旅人になる。金銭の工面は依頼をこなせばいい。私は故郷に戻るからこの家は君が自由に使ってくれて構わない。それでは、頑張ってくれ」
所々意味の解らない文章が綴られている。
私は階段を上り知らない間取りの居間に出ると本能的に壁に立てかけてあった剣を手に取る。不思議に手に馴染む。
なぜかこの剣には深い愛着がある。生まれながらの片割れとでも現そう。
剣と「使ってくれていい」と書いてあった小銭を持ち、頭まで覆ってくれる長いローブを纏い外に出た。
最初に目が合った青年が異質な者を見る目で私を見てきたのでより深くローブを被る。
ここに来た理由はわからないが、自分が何者であるか、何を経験したのかは不思議に覚えているもので、何をすべきかも明確だった。
ここは人間の街で、私の知る限り信用できる者は皆無。
理由はわからないが、早くここから去りたい。
その後、私は誰にも知られずに街から出た。誰にも容姿を見られることもなく。このローブは重宝する。
二振りの剣を背の鞘に収め行く当てのない旅に出る。
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