無力な少年の物語/心強い仲間がいるから
俺にしては随分と格好のいい啖呵を切ったが、どうすればいいのかさっぱりわからない。
とにかく、町の剣士や商人が集まる「剣士の集い」という集会場のような施設に行くことにした。
そこには武具の修理や販売から、デフスト含む厄介者の撃退依頼、商人等の護衛依頼などの様々な取引もできる。町の環境整備や流通行路の情報交換も可能なので、ここにはたくさんの人が来る。実際に依頼が終わって帰ってきた屈強そうな剣士が報酬金を貰っている。
依頼を無事に完了させて戻ってきた場合、その難易度に応じてお金が支払われる。依頼者はお金を出して依頼を提出し、それを「剣士の集い」で難易度・目的地・報酬金などで分けられて、依頼として正式に受注することができる。
前で依頼受付の人と話し込んでいるこの人も、依頼を成功させて帰ってきたばかりだ。依頼について話を聞こうと思ったが、その人は困ったような顔をして「夢を目指すのはいいことだが、ここはお前のような子供が来ていい場所じゃないぞ。」
そう言って、立ち去ってしまった。確かに俺みたいなヤツが来たって、さっきみたいに強くて頼れる人はたくさんいる。
「ちょっと・・・そこの」
いきなり何もしていない俺が、危険な稼業に行けば死んでしまうかもしれない。
「おい、聞いているか?」
せっかく頑張ろうって決めたのに。せっかく・・・
「おーい!あんたの事だよ!」
「うわっ、ごめんなさい。考え事をしていて。えっと、あなたは?」
「あぁ・・・ごめん。なんかさ、お前がめちゃくちゃ辛そうな顔してたからお節介焼いちまった。嫌だったなら悪い。」
明るい声で悩む俺に声をかけてくれたのは同い年くらいの背格好もよく似た青い髪と瞳の優しそうな男だ。
その彼は、「俺はティム。これも何かの縁だ、お前とは気が合いそうだ。直感だけどな」
「俺はザズだよ。右も左もわからなくってさ、その中で君が声をかけてくれてすごく助かったよ、ありがとう」
せっかく知り合ったんだから、一緒に頑張ろうぜ。そんなことを言うにはまだ、照れくさくて言えなかった。
「実はさ、俺、家出してきたんだ。・・・父ちゃんと大喧嘩しちゃってさ。出ていけって言われたから、売り言葉に買い言葉で。頑固おやじだったから、離れるのは正解だったかな?」
「そうなんだ。俺は父が・・・立派な騎士だから憧れて、同じような人になりたいって思ってたけど、人はみんな違うから同じにはなれないって気づいた。だから、俺のやり方で頑張りたくてここにきて、君と話してるんだ。」
俺たちは意気投合し、仲良くなれた。笑い話をして親睦を深めた。
この日、剣士の集いの一角で2人の少年が満面の笑みで握手を交わした。俺にとっては、ティムは自分だけに手を差し伸べてくれた気がした。それが、どれほど嬉しかったことか。
それを見ていた隅っこの席でお酒を飲んでいる男性が誰にも聞かれないようにそっと呟く。
「あの子はラインの息子か。彼とは何年も会っていないな。」
懐かしい記憶に数秒浸った男性は、すっかり空になった木のグラスを置いて、忙しそうに駆け回る店員たちを尻目に、カウンターの上に通貨を置き、誰にも気付かれずに去って行った。
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