無力な少年の物語/踏み出そう

でも、行動を起こさないと動かないのは知っている。
今までの俺だったら、「どうせ俺なんてその程度」なんてすぐに諦めてしまっていた。が、今は違う。
ここに立っている俺は実力なんててんで無いが、心だけは少し強くなった、はず。
弱者なりに戦い、結果を出す。自分の持つ弱い力で少しでも、1人でも助けられる人が増えるのなら・・・
負けたって、批判されたっていい。俺なんかにできる事なら全力で挑んでみようと思った。
俺を支えてくれた人たちに恩返しをしたいから。俺を見てくれている人たちの期待に応えたいから。
頑張れる理由はたくさん見つかったけど、力は足りない。
どうすればいいんだ・・・どうすれば。
「悩んでいるのかい?ザズ君」
見知らぬ男性が話しかけてきたが、「は、はい?どうして俺の名前を」名前を知っていた。
「あぁ、どうやら伝えていなかったらしいな」
男性は肩の紋章を見せてくれた。そしてそれは、知らない人はいない程の慈善団体の証だった。
「私はジャック・アーロン。ライン・・・君の親父さんの同僚だった者さ」
「え!?そうなんですか?あなたが!」俺はその名前を知っていた。父はよく話してくれた。「ジャックは、とても気配りができる優しい人なんだ。今でもこの近くに来ることもあるらしいから見かけるかもしれないよ」と。
俺は、嬉しかった。人伝にしか聞いていない人だけど、いい人だと感じた。

彼が所属する慈善団体「カルフェス支援団体」は、60年前に活躍した、生命線とまで呼ばれたカルフェス・アーガイルという多くの人の命と心を救った英雄だ。そんな人物の名の元に誠実に人々の救いになると誓った人が団体に入ることを許される。
そのジャックさんは俺に、地図を渡してくれて「君たち、住む家は探せるかい?仕事もだよ。正式に剣士として活動できるのは19歳からだから依頼を受けるのは特例を除いてできない」厳しい現実を突き付けてくる。
正直嫌だけど、この人の言うことは正しい。仕事だっていくらでもある訳ではない。
でも、決めたことはやりたい。自分勝手に聞こえるかもしれないけど、俺たちがどこまで行けるのか知りたくなった。
と意気込んだ時、
「そこでだ。君たちはこの地図に書かれた場所に行くといい。私と君の親父さんの共通の親友に迎え入れてくれるように手配しておこう」
なんとジャックさん、俺たちの先が不安だから手引きをしてくれると言う。ありがたいことだが、
「え!?いいんですか、そんな、わざわざ悪いですよ!」
「いや、いいんだよ。気にしないでくれ」
そこまでして貰うのはちょっと申し訳ない。でも本人がいいって言うんならいいのかな・・・
「いいだろ、ザズ。何度も聞くのは良くねぇと思う」
「わかったよティム」
俺は戸惑いながらも地図を受け取り、
「ありがとうございます、助けてもらってすみません」
「どういたしまして、大丈夫さ」
「助かりました。こいつ共々頑張ります」
「あぁ、気を付けて」
彼は満足げに去って行った。
俺はやっぱりこれでよかったのかな、と迷ったけど、いつも気遣いを引きずる悪い癖を投げ飛ばして
「地図を見ながら進んでみよう」
綺麗に書かれた地図を二人で見ながら出発した。
故郷を出て広い道を行く。大きな街に友達と行くなんて楽しみだなぁ、不安もあるけど、頑張らなきゃ。
「おいザズ、気負い過ぎても疲れるぜ。考えるのは街に着いてからだ」
「そうだよね。どんな街なんだろう」

ザズたちが街に出発してからしばらくして、とある屋敷に手紙が届いた。その手紙を読むのは、初老の男性騎士。彼は穏やかな表情で呟いた。
「少年を2人、迎える支度をしなければいけないね」
銀髪を撫でつけながら厨房へと向かった。

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