二次創作小説
妻は臥せっているー取り返しのつかない程に精神を病んでしまった
「いつか終わる時が来るのだろうか……」
私は陰鬱とした面持ちで今日も病室の
ドアを開けた
「おはよう!今日は良い天気だね」
妻と話す時は可能な限り笑顔で接している
(私たちは幸せの中にいるんだよ)と
思わせるように
・・・私の職業は小説家、といっても
売れない三流の、であるが。
これだけ媒体の溢れた昨今。推理小説を手に取る人など特異で希少なのだろうか……いや、そもそも私の書く小説が「物語」として
くだらない底辺である事が問題なのだが。
私には何者にも代え難い家族が「いた」
妻と二人の娘、二人とも5月生まれだ。
長女はしっかり者で私とは似つかわしく
ない、どちらかと言えば妻のミニチュア版
といったところだ
次女はまだ幼く目を離すとすぐ何処かへ
行ってしまい妻とよく慌てふためいたものだ
幸せの絶頂だったー
私が仕事で出版社に出掛けたあの日、、
次女が、唐突に、いなくなった、妻と長女は、次女を、走りまわって、探した、随分と、焦っていたのだろうそんな事は分かってる、妻が、衝突音を、聞いたのは、送迎用の猫バスの運転手が「急に飛び出してきたんだ」と、動かない、長女を前に、弁明ばかり、繰り返していた、と。
私は近隣の他人から電話口で聞かされた
出版社の方にバイクを借り急いで戻れば
不幸が重なるように
次女も、貯水地で、、浮かんで、いた
妻は妻でなくなってしまった
あぁ、仕方ない。
近隣のお悔やみや気遣いが煩わしい
仕方ない。
生きるって、命ってなんだ、仕方ない……
仕方ない………
引っ越そう、誰も知らないところへ。
田舎が良い。広い庭で。長女と次女がもし
生きていたら喜びそうな。
全てやり直そう。
……やり直す?どうやって?
私「たち」は引っ越し、そして妻は入院した
あの日の事を聞こうとすると妻は精神錯乱に陥った
妻は二人の娘が「生きている」と
思い込んでいる
そうする事で自我を保っている
蜘蛛の糸よりも細い、細い糸で。
どうすれば…?
どうすればいい…?
どうすれば時が戻る…?
神様は…?神様…は………
そうだ。私は小説家だ。
妻が思い出に生きているというならば私が
思い出の世界を広げよう。
長女ならば年頃になって淡い恋物語も
あるかも知れないー
次女はまだ幼いから夢のような妖精との
出会いなどあるかも知れないー
ファンタジーなど書いた事は無いけれど
妻の為に。長女の為に。次女の為に。
―私たち家族の為に。
それから私は二人の娘が生きていて、どう
過ごしているか、の夢物語を執筆した。
ただ病室の妻に聞かせる為だけの。
隣家のお婆さんが来てくれたら題材に
畑に蒔いた種が芽吹けば題材に
月が雲に隠れれば題材に
終わりのない夢物語を
妻は喜んでくれた
「おはよう!今日は良い天気だね」
その日は近頃の雨模様から打って変わって
快晴だった。
「あなたおはよう」妻も珍しく調子が良い
みたいだ。
そして私は今日も二人の娘のあり得ない
夢物語、存在しない冒険譚を読み聞かせる
妻は笑ってくれている
そんな時、ふと妻は病室の窓の外を見上げた
「どうしたの?」私の問いかけに
「蝶々が…」見ると窓の外に二つの蝶が
仲睦まじく上へ上へと向かって飛んでいき
やがて見えなくなった、、
「いま、そこで二人が笑ったように
見えたの」
……………
「そう、よね、、あの子たちは蝶々になって
お空へいってしまったのよね」
晴れ渡る空に二人の笑顔が確かに
見えた気がした
fin