”祈るとは、むしろ、その何者かの声を聞くことのように思われる”
知人が贈ってくれた『悲しみの秘儀』若松英輔(文春文庫、2019)。
「悲しみ」を生きることについて、さまざまな本の一節が、筆者の心模様とともに紹介されています。
文字にして読めば、そう、そんなふうに、胸の奥の方では思っていた、でもとてもとても、自分は言葉では表現できなかった、という、とても繊細な文章に引き込まれます。
そして、聴くこと・聴こえないこと、語ること・語りえないこと、言葉、声、はこの本を流れるテーマの一つだと思います。
「人は、自分の心の声が聞こえなくなると他者からの声も聞こえなくなる。
祈ることと、願うことは違う。願うとは、自らが欲することを何者かに訴えることだが、祈るとは、むしろ、その何者かの声を聞くことのように思われる。」p4
「人が語ろうとするのは、伝えたい何かがあるからであるよりも、言葉では伝えきれないことが、胸にあるのを感じているからだろう。言葉にならないことで全身が満たされたとき人は、言葉との関係をもっとも深めるのではないだろうか。」p6
聴くことを見つめようとしたとき、とても大切なことを教えてくれる本だと思います。