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娘の卵アレルギーと向き合う父親の葛藤
病院の検査室。1歳の娘が、小さなスプーンで慎重に卵を口に運ばれるのを見つめていた。
「大丈夫、大丈夫」
そう言い聞かせるように心の中で呟く。
妻と一緒に何度も話し合い、アレルギー専門の先生と相談して決めた食物経口負荷テスト。少しずつ体を慣らしていくことで、いずれは普通に食べられるかもしれない。でも、それには「反応が出るかもしれない」というリスクも伴う。
一口目、娘は何事もなく飲み込んだ。二口目も大丈夫。少し安心しかけたその時だった。
娘の顔色が変わった。小さな体が震え、目を潤ませたかと思うと、突然、嘔吐した。
「先生!!」
慌てて声を上げると、看護師さんがすぐに駆け寄ってきた。先生も冷静に対応し、アレルギー反応の有無を確認する。
僕はただ、その光景を見ていることしかできなかった。
何もできない。何もしてあげられない。
娘の苦しそうな表情が胸に突き刺さる。
処置が終わり、落ち着いた娘を抱っこしながら、ふと自分を責める気持ちが湧いてきた。
「無理させるべきじゃなかったんじゃないか…?」
「もっと違う方法があったんじゃないか…?」
でも、先生の言葉に少し救われた。
「負荷テストは、アレルギーを理解し、正しく対応するためのものです。今、娘さんがどの程度の反応を示すのか分かったことは、とても大きな一歩ですよ。」
そうか、これは『失敗』じゃなく、『前進』なんだ。
家に帰ると、娘はいつも通り笑っていた。
「パパ!」
何も知らないような無邪気な笑顔に、僕はようやく力が抜けた。
アレルギーと付き合うのは簡単じゃない。けど、娘のためにできることを、これからも一つずつやっていこう。
無力に感じることがあっても、何もしないわけじゃない。
向き合うこと、それ自体が、親としての役目なのかもしれない。