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【映画感想】『WALK UP』 メビウスの輪を登る
韓国映画、ドラマも好きで、名前もずっと知っていたのに何故かご縁がなかったホン・サンス監督作品。今回はタイミングが合い、アップリンクにて。
映画監督のビョンスは、インテリア関係の仕事を目指す娘と、インテリアデザイナーの知り合いが所有するアパートを訪れる。ワインを酌みながら、和やかに語り合う3人。そんな中、ビョンスに仕事の連絡が入る。「すぐに戻る」と、その場を離れるのだか…。
なんとも不思議な映画である。
普通、これだけ板付きの会話劇を延々と展開されると、眠気と戦うことになるのだが。それがまったく眠くならなかった。心地よさと心地悪さを綱渡りしていくような
奇妙な緊迫感がずっと持続するのだ。それは主演のクォン・ヘヒョの存在(寄生獣グレイからすっかりファンに笑)、登場した瞬間に男がなびいてしまう、ただ事ではない魅力を発していたソン・ソンミの力なのか。
または僕が主演のビョンスと同じ映画監督を生業としているからか。とにかく目が離せないのである。
ベッドで寝そべるシーンの、ビョンスの寝姿を見るだけで、あぁこいつ甘えん坊で、「自分、孤独が好きなんです」って言いたがる寂しがり屋ですね、わかるよ、と感じたくないシンパシーを感じてしまう。これは演出の力と、役者の力が、ここも奇妙なバランスで絶妙に成立した結果なんだろうなと感心する。
観客を選ぶ作品であることは間違いない。途中で退席したカップルには退屈な中年の会話劇に見えたのだろう。それは理解できる。とにかくカット割りをしないのだ。
もちろん意図的だろうが、極端にカットが限定されている。僕が監督だとしたら割るし(大きなお世話)、観客としても演者の表情見たい、となる(ソン・ソンミの顔見たい笑)。
カメラマンはおそらくスチールカメラ出身のカメラマンなのではないだろうか。フィックス(固定)で撮っているときの画角はため息ものの美しさなのだが、ワーク(動き)が入ると途端に「下手くそだなぁ」と思ってしまう。
音もMA(整音/音の編集作業)してないのか? と思うくらいひどい音だった。
それがホン・サンスの特徴なのかどうなのか、初体験なのでわからないが、そこは単純に気が散るし、音はちゃんとやろうよ、と偉そうに思った笑。
「時は死なず、巡ることなし」
これは僕のオールタイムベストに入るミルチョ・マンチェフスキ監督の『ビフォア・ザ・レイン』に出てくる一節である。
『WALK UP』も『ビフォア・ザ・レイン』も作りとしてストーリーがメビウスの輪のようになっている。そういう作りは大好きなのだが、『ビフォア・ザ・レイン』と比べると荒削りで、ちょっと雑というか、舞台などでやりそうなやり方に見えた。それが良いという観客がいるのは間違いないが、僕個人はそこをもう少し丁寧に映画的にやってくれたほうが、ラストカットの余韻がさらに楽しめたと思う。
初体験ホン・サンス、演者たちの芝居のように、良いと悪いの線上を綱渡りする、好きとか嫌いとか単純な線引きのできない、したくない絶妙な作品だった。
ただひとつ言えるのは、メインビジュアルは今年のナンバーワンで間違いないかっこよさなのである。