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キミとシャニムニ踊れたら 第3話ー⑤「ヒーロー」


 前回はこちらです。

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 テストが全部返却され、あたしの順位は過去最高の121人中54位を記録した。 
 最初は皆から、驚嘆の声を挙げられ、同時に、ズルを疑われた。 

 週が開けた月曜日。あたしはその思いを改めて、伝えたかったが、これから、部活が忙しくなるから、昼休みに話そうと羽月を呼び出し、2人で会話しながら、誰も居なさそうなエリアを捜し歩いていた。

 「未だに信じられないわ。まさか、暁がここまでやるなんて」

 「へっへへ~、どんなもんだい!」

 「お兄さん、頼ったんでしょ?」

 「悪い!一人じゃ、やっぱ無理だもん」

 「分かってるよ。そうだよね、私の勉強より、お兄さんの方が」

 「それは違うよ、妃夜」

 あたしは脚を止め、妃夜に気持ちを伝えた。

 「やめて、その呼び方。私は暁を認めたわけじゃ」

 「妃夜が教えてくれた所、全部出てたのに、あたし答えられなかった。にーちゃんは教えてくれたけど、妃夜の補完だよ。全部じゃない。妃夜がいてくれたから、あたし頑張れたんだよ」

 「暁・・・」

 羽月も脚を止め、あたしの言葉に耳を傾けていた。

 「妃夜、あたし気付いたんだ。あたしとキミは同じだって」

 「そんなわけない。暁とあたしは違う。私はあなたみたいに足が速いわけでも、皆に愛されるわけでもない。私は勉強しか出来ない、それ以外は何も」

 「当たり前だよ。あたしたち、まだ中学生だよ。空っぽで当たり前じゃん。だって、まだ何も知らないし、何も出来ないよ。頑張ることしか出来ない。大人みたいにスマートに何でも出来なくていいんだよ」

 あたしの言葉に妃夜の視線は下を向いていた。 

 「あたしもね、頑張ることしか出来ないんだ。それで色んな人を傷つけたし、あたしも苦しくて、自分は陸上だけなんだって、思ったんだ」

 妃夜の視線は変わらなかった。けれども、ちゃんと言葉を聴いてくれる姿にあたしは自分を止めることが出来なかった。

 「だけどね、勉強して気付いたんだ。あたしって、勉強出来るんだって。陸上だけじゃなくて、勉強も出来るんだって」

 「そ、それは暁が頑張ったから。暁は私とは違う。私はそんなに強くない」

 「私は1人になれない。独りで勉強なんて、出来ないよ。それにあたしは妃夜に未だにどう接していいか、分かんないの。分かんなくて、迷走して、ぶつかって、怒らせて、妃夜を傷つけて・・・」

 「何言ってるの?私を傷つけた?私がいつ傷ついたの?」 

 妃夜は上を向き、あたしに目線を合わせていた。

 「そ、それは・・・。連絡先交換した時、詰め寄り過ぎたのと、甘えすぎて、妃夜を困らせたというか・・・」

 妃夜は余りにも、前のことで、思い出したように、頬を赤らめていた。

 「いつの話してんのよ、ばか。暁らしくない!何なのよ、私は怒ってないし、あの時は私が煮え切らなかったからであって、私は傷ついてない。舐めないで!私も成長しているんだから!」

 「そうだけどさ、そうかもしれないけど」

 妃夜はあたしに無言のまま、近づいて来た。

 「あたしの方こそ、ごめんなさい。あなたがそんなことで傷ついていたなんて、気付かなくて。てっきり、テストに集中する為に頑張っていたのかなって・・・」

 「あたしの存在価値って、その程度なの?」

 「知らないわよ。だって、矢車さん達とは、話していたし、ヤケに静かとは思ってたけど、本当にあなたって、おばかなのね」

「それ、先生にも言われた。勉強してたのに、バカって言われるの何か、腹立つ」

 「そうかもね。ふっふふふふふ。はははははは」

 「妃夜?」 

 急に笑い始める彼女の姿にあたしは言葉が出てこなかったが、すぐに行動に移した。それまでの秒数0.005秒。

 「笑えるじゃん!何で今、笑うんだよ!」

 「だって、あんなに寒いこととか言ってた癖に暁は暁なんだと思ってさ。私、あなたのこと、過大評価してたのかも。それに普通に笑うわよ、人間だもの」

 「それ、どーいう意味?」

 「そのままの意味よ。暁って、面白いね」

 妃夜は何処か、安心した表情を浮かべているように思えた。

 「なんだよ、面白いって」

 「だって、そんなに私のことを考えてくれてるんだって、思ったら、何だか、嬉しくて。それなのに、ばかみたいに勉強したりして、私の信頼を得るなんて。ばかだよ、暁は・・・本当に・・・本当に」

 妃夜はその場でうずくまってしまった。どうやら、本当は嬉しかったらしい。 

 「妃夜は泣いてばかりだね」

 「悪い?私だって、泣きたくて泣いてるわけじゃないし」

 「いや、妃夜らしいなって」

 「どういう意味よ、それ」

 「深い意味はないよ。ただ」

 あたしは妃夜の手を取り、彼女を立ち上がらせた。 その後のことが、どうなるかと分かっていたはずなのに。

 「あんた、いきなり、何を」

 「あたしは妃夜の手を放さない。あたしがキミの中にあるものを教えてあげる。勉強だけじゃない色んなことを教えてあげる」

 すぐにあたしは手を放した。妃夜の表情は何処か、落ち着いているようだったが、表面的なものであって、本当の所は誰にも分からない。

 「放したじゃない」

 「ずっとは握ってられないし。ずっと一緒にはいられないし」

 「滅茶苦茶よ、それ」

 「滅茶苦茶だよ。だけど、それでいいんだよ。だって、あたし達は中学生だから。これから、何者にもなれないかもしれないけど、何者にでもなれるんだから」

 妃夜は下を向いて、表情を隠しながら、後ろを振り向いた。

 「暁・・・。せ・・・せ・・・なちゃ・・・せ・・・な・・・」

 「妃夜?」 

 妃夜は振り向き、今度は目を見開いて、あたしから目線を逸らさず、見つめていた。

 「せなちゃん・・・いや、暁ちゃ・・・。私の連絡先をあげる・・・から、その、私の友達になって・・・。私の・・・、その・・・」

 妃夜はふらつき、その場で倒れ込んでしまった。

 「妃夜!妃夜!妃夜!」

 あたしは妃夜を医務室に運ぼうとしたが、もうすぐ、五時限目が始まってしまう。 どうしたもんかと思いながらも、加納さんにメッセージを送り、独りで運ぶことにした。 

 今回はあたしが悪い。こうなることは最初から分かっていても、止められなかった。悔いを残したくは無かったから。 

 だから、決めたんだ。あたしは妃夜の呪いを解いて見せる。例え、それが妃夜を苦しめる形になったとしても・・・。 

 保健室に行く途中、妃夜は目を覚ました。

 「ここは・・・天国?」

 「おきた?」 

 あたしは妃夜から離れたかったが、今放すと寝起きの妃夜が大変なので、離れることは出来なかった。

 「暁・・・。私、また」

 「いいんだよ。ごめんね、すぐに離れるからさ」

 「放さないで」

 「ん?」

 「放さなくていい。耐えられるから」

 「でも・・・」

 「だいじょうぶだから。教室に行こう」

 「妃夜・・・いいの?」 

 妃夜の言葉には覚悟と信念を感じた。彼女もこのままでいいとは思ってないのだろう。  

 「頑張る、頑張りたい。ここで頑張らなきゃ、何も変えられない」

 「無理しちゃダメだよ」

 「無理させてんのは、あんたでしょうが」

 「それもそうか」

 そう言いながらも、妃夜はあたしから、離れた。

 「へいき?」

 「まぁまぁ」

 「そっか。戻ろうか」

 「ねぇー、さっきのことだけど・・・」

 「ん?」

 「私の・・・私のれんら・・・私の連絡先、教えてあげる。だから、暁の連絡先教えて・・・」

 「いいよ。だけど、今は急がなきゃ。放課後ね!」

 「う、うん!」

 あたしと妃夜は急ぎながら、教室へと向かった。 
 その先がどうなるかは、分からない。あたしたちの可能性は、無限大なんだから。

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