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ペルーの謎の天空都市 マチュピチュ
インカ帝国は13世紀から、スペインに征服される15世紀頃まで、最盛期にはエクアドルからペルー、ボリビア、チリに及ぶ大帝国だった。
ただ、インカの人々は文字を持たず、自らの業績や歴史を残すことがなかったため、未だに解明されることのない謎に満ちている。
中でも、住んでいた人々が忽然と姿を消した謎の天空都市「マチュピチュの遺跡」を一生に一度は見てみたい!という想いに駆られて、滞在先のチリのサンティアゴからペルーの首都リマに入る。
リマからクスコへは車だと20時間以上もかかるため、空路を利用した。
…が、標高が高いため天候不良で空港で2時間近く待たされる。
遅延のアナウンスが流れるたび、カウンターへはクレームを付けにどっと人々が押し寄せる。
日本では決して見られないラテン系民族特有の「熱さ」だ。
気質の違いを興味深く肌で感じながら、クスコへ到着。
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標高3,399mに位置するクスコの街は、エジプトのギザのような乾いて色のない印象を受けた。
人々の眼差しもどこか憂いを含んでいるように見える。
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ペンションのオーナーに、活動的に動き回ると高山病になるから、今日は大人しくしていた方がいいと言われたが、部屋でじっとしているのもつまらない。そっと街に繰り出してみた。
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大聖堂前の広場には市が立ち、色とりどりの雑貨や土産物が並べられており、地元の人々も浮き足立って見える。
色のないクスコの街の妙な華やぎ…どこかミスマッチな感を受けた…。
ペルーでは、国民の約89%がローマ・カトリック教徒。そう、今日はクリスマスイブだ!
大聖堂ではミサが行われていて、ろうそくの炎が静かにゆらゆらと揺らめく中、人々の厳粛な祈りの波動が満ちていた。
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翌朝、インカレイルでマチュピチュ村へと向かう。
吸い込まれそうな深い渓谷を抜けると、停車駅では行商の女性や少女達が窓越しに食べ物やお土産を売るのに余念が無い。
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終着駅、マチュピチュ遺跡の起点 アグアスカリエンテス(マチュピチュ村)からはシャトルバスを利用。
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ガードレールも何も無い細い崖っぷちの山道、ひたすらヘアピンカーブが続き、標高2,700mへ向けてぐんぐんと登る。
運転手さんの腕前だけを信じて、祈るような想いだ。
以前、本でマチュピチュのことを読み、いつか訪れてみたいと思っていた。
きっと今、あの筆者と同じ想いを感じているのだろう。10年越しの夢が叶ったことを嬉しく思った。
麓からは誰も仰ぎ見ることのできない、標高2,700mのひっそりと隠された空中都市。
一体どんな全貌を見せてくれるのだろう?そして私はどんなことを感じるのだろうか…?期待に胸が膨らむ。
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バスを降りて10分ほど歩くと、忽然とマチュピチュの遺跡が姿を現した!
息を飲み込んだまま、言葉にならない…。
周りにいた英語圏の人達も「Oh〜〜!Breath taking!」と口々に発している。「息を飲むほどの…」と言う表現は万国共通なのだな、などと冷静に思ったりもした。
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マチュピチュは王の隠れ家とも、宗教拠点とも、貿易拠点とも言われている。
石は計算したように正確に切り出され、隙間なく積み上げられている。
また、漆喰を使わず、鉄製の道具など無しに建てられたというマチュピチュは、今でも工学の驚異と称賛されているそうだ。
ペルーは地質活動が活発な国で、マチュピチュの下にも、2本の断層線が通っているとのこと。実際、首都のリマやクスコも地震に見舞われたことがある。
なぜそのような場所に500年もの間、この石造りの空中都市は崩落せずに存在し続けられたのか?
そもそも材料となるこんな大きな石をどこから調達して、車輪を持たない彼らが、どうやってこんな山の上まで運ぶことができたのか???
当時 約750人が暮らしていたといわれるが、山頂であるにもかかわらず、高度な利水システムが完備されているのも不思議だ。
地震が起こると、インカの建物は「踊り出す」と言われている。
揺れによって石が互いに衝突し合い、最終的に元の位置に納まるという特徴を活かしていると何かで読んだことがある。
このような建て方でなければ、マチュピチュの多くの有名な建造物はとうの昔に崩落していたとのこと。精巧な技術!
おそらく当時の技術の粋が集められているのだろう。
そしてこんなにも高度な技術が駆使されていたにも関わらず、人々はある日忽然と姿を消した。何の記録も残さずに…
500年の眠りから覚めて尚、未だに解明されない多くの謎を秘めるマチュピチュは、知れば知るほど、観れば観るほど、ヴェールの向こうだ。
超越したものって、咀嚼しきれないのだということを改めて感じた世界遺産だった。
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インカ時代に建造された遺跡は数多く残っている。
翌日はペンションのオーナーの案内でクスコの遺跡群を回った。
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一説によると太陽信仰だったインカ帝国の神々を祀る神殿だったり、要塞だったり、塩田だったり…。
文字を持たない文明だったので、その記録が残っていなくて、目的や用途は今もって謎に包まれていると聞くが、その積み上げられた石の一つ一つに、栄華を極めたインカの人々の知恵と誇りと歴史を感じることができる。
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道中、クスコのお祭りに出会した!
カラフルな民族衣装に身を包んだ少女たち♪
そのはにかんだ笑顔に、どことなく日本人に似た面影をみた。
遠くて近い、近くて遠いペルーの旅だった。