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屋久島 もののけの森
本州から屋久島に、家族で移住した友人の風貌が
わずか一年で、別人のように生き生きと変化し
伸び伸びと自分らしい仕事で活躍を見せていることが
私をこの島へ向かわせる大きなきっかけとなった
人生を運命をも変え得る屋久島…
彼は言う
「この島は来たいと思っても来れない人もいる。
導かれているかどうかと、そのタイミングなんだ」と。
そんなことを言われたら居ても立っても居られない
羽田から鹿児島で乗り継いで空路 屋久島へと向かう
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ローカルバスにも海外からの観光客がひしめく程
世界的にも有名になってしまったこの島だが
一周約100km 車で4時間もあればくるりと周れるほど小さな島だ
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標高差2,000mある屋久島は
亜熱帯気候から亜寒帯気候へと垂直分布を見せる
南側にはハイビスカスなどのお花も咲き
海中に温泉も湧き出している
寄せる波をゆるゆると体に感じながら
ぽかぽかと温泉に浸かることもできる
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9割が山というこの島の海岸線をレンタカーで走っていると
道のすぐ脇までいくつもの滝が勢いよく流れ込んでくる
ペンションの敷地内にも滝は流れ
眠りについても滝の音は休むことはない
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地盤のほとんどを水晶が占めると聞く
365日中366日雨が降ると言われるこの島では
毎日、文字通り「水に流す」ということが繰り返される
そう、土地もそこに滞在する人も
いるだけで浄化されていくのだ…
都会からの移住者も観光客も
削ぎ落としたい何かを持った人々が
もしかしたら導かれるように訪れるのかもしれない
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島の懐奥深くに入って
深い森の手付かずの自然に抱かれれば抱かれるほど
この島の底知れぬ魅力を感じる
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もののけの森へ続く白谷雲水峡の森には、あいにく案内板などはない
この森はマイナーで殆ど人は入らない、ネットも繋がらない…
木に結ばれている小さな赤いリボンだけが目印だ
森と対話しながら、ひたすら道なき森を行く
赤いリボンをうっかり見逃すと
妖精たちの森でぽつんと迷子になってしまう
否応なしに野生の勘が冴えてくる
目から脳から体から…何かが剥がれ落ちていくように感じる
PCで重くなった目、
思考でガチガチになった脳、
硬くなった首や肩の凝り、
そして起こりもしない心配事でいっぱいの心…etc
軽くなっていく…
移住を決めた人たちはかつてこの島の
このDeepな魅力の囚われ人となってしまったのだろう…嬉々として♪
危うくこの島に潜む魅力が、わたしを掴んで離さなくなる
そして私も一度は移住を考えた
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そして
「あの山のてっぺんのあの岩に毎日UFOが飛んで来る」
と当たり前のように話す地元のおばあさん達や
ホテル経営を引き受けるべきか、渓谷の岩に立って悩んでいたら
一陣の風が吹いて背中を押してくれた、と話す人気の宿の女将さんや…
なんとも浮世離れしたような体験を
当たり前のように携えて過ごしている島の人々の在り方は
「人間なんて自然や宇宙の一部、ちっぽけな存在だ」ということを
身を持って深く理解しているのかもしれない
屋久島…そこは
人間なんて自然のほんの一部で
「五感こそが自分そのもの」ということに
回帰させてくれる場所のように感じる
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屋久島はこれまでに4回訪れている
屋久杉の森を一人ゆっくりと歩き
樹齢1,000年を超える杉と対峙すると
「その悩みを1,000年先から振り返ってごらん」
などと言われているような気がする
すると自分の今の悩みなんて「どうってことないな…」そう思える
1,000年という長い歳月にわたり
この森の生長を、島の息吹を
風雨にさらされ、そこで独り見守ってきたその老木に
人智を遥かに超えた叡智を感じる
そんな時いつも理由もなく涙が溢れてくるのだ
杉たちの何かに共鳴しているのだとしたら、とても嬉しい
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宇宙に存在する全ての素粒子は、
他の全ての素粒子と瞬時にコミュニケーションを取っている
帰宅して何かで読んだ
「日本中の杉たちはお互いに情報交換をしている」と。
科学的根拠があるのかどうかは別として
私にはその事がとてもしっくりきた
屋久島の杉も房総の杉も
人や森や地球を見守るために
はかり知れない叡智を共有しているような気がしたからだ
以来、故郷の町のはずれの杉林を歩く時
この杉たちも屋久島の杉と繋がっているのだろうか?
そんなことをふと思ったりもする
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宮崎駿監督が「もののけ姫」を製作するにあたり
23回も通ったと聞くこの島の「もののけの森」には
確かに「妖精」がいると感じた
人間は自然に対して極めて狂暴に振る舞ってきたんです。 それで、自分達が選ばれた者であるとか、この人類が一番高等な生き物であるとか言い出す。 ある時には、人類の中のある部分が一番高等だと順番をつけたがる。こういう人間の本質みたいなものを据えた、自然と人間との関わり合いを描く映画を作りたいと思ったんです。
彼もまたきっと妖精を見たに違いない、と
行った人にしかわからない、行けば感じる
妙に確信めいた自信を持たせる何かが
この屋久島にはある
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