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『引きこもり探偵』第一話 開け放って、秋

 ドアを開けた瞬間、起戸見きとみ文時ふみときは悪寒を感じ、その場で硬直した。

 男と目が合ったからだ。
 それはただの男ではなかった。ただの男であれば文時ふみときがこの時、ドアを開けた瞬間に、一歩後退るなどと言う行動にはならなかったはずだ。
 男は夜にも拘わらずティアドロップのサングラスをして、顎から頬骨までを覆い隠す大きなマスクを耳に掛けていた。頭髪もニット帽で隠されている為、どこの誰だかを見抜くことはできない。それでも目の前の人物を男と断定できたのは、メンズのビジネススーツを着込み革靴を履いていたのみならず、男性が好んで付けそうな香水が鼻孔を突いたからである。
 文時ふみときはドアノブに手を掛けた。
 男の片手にはナイフが握られていたからだ。

(くそ! 間に合え!)

 文時ふみときより一挙動早く、男はドアの間に革靴を滑りこませていた。力の限りドアを引くがびくともしない。ひょろっと痩せた文時ふみときの体では、力任せに男を弾き飛ばすようなことはできない。文時ふみときが次の行動を起こすより早く、男は白刃を突き下ろしていた。
 心臓一突き。
 文時ふみときは勢いのまま仰向けに倒れた。

(不覚……。せめて、……澄亜すみあさんが、鉢合わせに、なりません、ように……)

#創作大賞2023

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