SFラブストーリー【海色の未来】4章(中編)−1
過去にある
わたしの未来がはじまる──
穏やかに癒されるSFラブストーリー
☆テキストは動画シナリオの書き起こしです。
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老紳士は古葉村邸のご主人だった。
わたしたちは挨拶を終えると、ソファに腰を下ろした。
「いきなりおじゃましまして、申しわけございません」
すると古葉村さんがニコッと笑う。
「流風から聞きました。あなた、ハーモニカが吹けるんですってね」
「いえ、以前吹いたことがあるだけで、別にうまくもなんともないんです」
「ぜひ聴かせてください。僕も子どもたちも、音楽が大好きなんです」
「は、はい……」
──ホントにハーモニカは趣味レベルなんだけどな……。
──それにしても、古葉村さんって、なんていうんだろう……気品があるっていうか、紳士的っていうか……。
穏やかな微笑み、優雅な立ち振る舞い。
──本物のお金持ちの余裕……? こんな紳士の見本みたいな人が現実にいるなんて。
──骨董品とかも、何気なく普段使いしちゃうんだろうな。
──気が向いたら、海外へ買いに行ったり……。あ、そういえば……。
「あの……お孫さんから、古葉村さんはご旅行中だとうかがってましたが……」
「旅行? ああ、先月、イタリアへ行ってきたんですよ。その話を聞かれたんですね?」
「えっ、先月……?」
──美少女はそんなふうに言ってなかった……。
「子どもの話って、脈絡がありませんからね。流風と美雨に同時にしゃべられると、わたしもいつも混乱しますよ」
──古葉村さん、わたしが流風くんと美雨ちゃんから聞いたと思ってる……。
お互い同じことを話しているはずなのに、海翔さんとも古葉村さんとも、なぜか話がかみあわない。
だけど、今日会ったばかりの人にしつこく質問を重ねるのも気が引ける。
「……あ、先月のお話でしたか。すみません、思い違いをしてました。ところで、本当に素敵なお庭ですね……」
わたしは当たり障りのない話で、その場をごまかした。
古葉村さんの名前はマサミチさんといった。
話してみると、マサミチさんはおしゃべり好きの楽しい人だった。
苗字でなく名前で呼んでくれると嬉しいと、初対面のわたしにも気さくに接してくれた。
だけどそんなマサミチさんに、わたしはここへ鑑定に来たことがあると伝えられずにいる。
──あの美少女は、本当に古葉村邸の子だったの……?
──もしかしたら……違う……?
さっきから続く疑問と違和感。
そのどちらもが、わたしを慎重にさせていた。
「流風くんと美雨ちゃん、まだもどってきませんね」
本当に訊きたいことの代わりに、さっきから無難な言葉ばかり口にしている。
「まだあちこち探してるようですね。行き違いになっちゃったな」
「家の中で行き違いになるなんて、広いお屋敷ですね」
「ええ。わたしたちだけで暮らすには広すぎますよ」
──わたしたちって、いったい何人なんだろう。
心に引っかかるけれど、それをたずねることはできない。
「ところで、海翔ともお会いになりましたか?」
「あ、はい」
「変わったヤツでしょう?」
「変わった……え、えっと……」
「19にもなって、常識知らずでマイペースなヤツなんです」
「19歳……ですか」
──まだ19だったんだ。
──年下だとは思ったけど、そんなに若かったなんて……。
「確かに、話してみると子どもっぽ……じゃなくて、マイペース……
あ、いえ、自由な感じはしますけど、わたし、海翔くんは20代かなと…………。
最初お会いした瞬間、とても偉そう……っていうか、しっかりした印象でしたし……」
わたしの歯切れの悪い言葉に、マサミチさんが笑いだす。
「ははっ、かなり的確な表現ですね」
「す、すみません、変なこといっぱい言いました……」
「いえ、いいんです。でも……」
マサミチさんは、ふと顔をくもらせる。
「それは……両親がいないせいかな」
「えっ……」
「ここの子どもは、みんなそうなんですけどね」
マサミチさんが少し寂しげに微笑む。
──みんな、お父さんとお母さんが……。
「どの子も必要以上にしっかりしないといけないと思ってるところがあるんです。
まあ、それが海翔の場合は変な方向にいってしまって……。
周りに合わせないことがしっかりすることだと、誤解したまま大きくなったようなんです」
不器用すぎて困ったものです、と言いながらも、マサミチさんの表情はどこまでも優しい。
──事情はわからないけれど……ご両親のいない子どもたちをマサミチさんはずっと見守ってきたんだ。
──いろいろ大変だったんだろうな……。
そのとき、部屋のドアが開く。
「あれ、じいさんもいたのか」
入ってきたのは海翔くんだった。
──あ、まだぬれたシャツ着たままだ……。
あまりに無頓着すぎて、少し心配になる。
そして海翔くんは、なぜか手にアコースティックギターを持っている。
「海翔。お前、ギターなんかやめたって大騒ぎしてたじゃないか」
「やめるのやめた」
なぜか偉そうに海翔くんが言う。
「……まあ、いつものことだ。驚きはしないよ」
──いつものこと……。なんか子どもみたいだな……。
「とにかく服を着替えてきなさい。そんなずぶぬれではお客さまに失礼だよ?」
「気にすんなって。だいぶ乾いてきたから」
マサミチさんに呆れ顔を向けられても、海翔くんはしれっとしている。
「でも……ギターに湿気はよくないですよね」
気がつけば、言葉が口をついて出ていた。
「はい? 湿気?」
海翔くんがわたしを見る。
門の前で出会ったときと同じく、怖いくらいにまっすぐな目だ。
「え、えっと、乾燥もあれだけど、やっぱり……楽器には……その……」
強すぎる目力に、たじたじとなる。
──よけいなことだったかな……。
──海翔くんって、人に意見されるの嫌いそうだし。
すると、海翔くんはギターをソファに置いた。
「うっかりしてた。着替えてくる」
こっちが脱力するくらい軽く海翔くんは言い、部屋を出て行った。
──い、意外に素直だ……。
「すみません、礼儀を知らないヤツなんです」
マサミチさんは苦笑いし、頭を下げる。
「あ、いえっ、そんな……」
勢いよくドアが開き、美雨ちゃんと流風くんが飛びこんできた。
「おじいちゃんがいないの……あれ、おじいちゃん!」
「なんだ、来てたんだ。海翔は?」
ふたりは口々に言って、マサミチさんにかけ寄った。
「今、着替えに部屋へもどったよ。またすぐに来るだろう」
「ん? お兄ちゃんのギターだ。どうしたの?」
美雨ちゃんがソファのギターに気づき、弦をつまんで音を立てる。
「セッションしようと思ってるみたいだね」
マサミチさんがわたしに笑顔を向ける。
「セッション……って、わ、わたしとですか!?」
「もちろん。海翔はバンドをやってるんですよ。でも、メンバーとケンカしたらしくてね。
しばらくなんの楽器にもさわってなかったから、うずうずしてるんじゃないのかな。着替える時間すら惜しいようだったし……」
「お兄ちゃんのギター、久しぶり!」
「比呂ちゃんに来てもらってよかったな」
「そ、そう言われても……」
──すごく……期待されてる……。どうしよう……。
みんながわたしに向けるワクワクとした目に、ものすごいプレッシャーを感じてしまう。
「ハーモニカは……その……何度も言ってるけど、本格的にやってたわけではなくて──」
「美雨、比呂ちゃんと海翔が演奏しやすいように、ソファの位置を変えようよ」
「うん! おじいちゃんも手伝って!」
「はいはい。そうだ、譜面台も用意しよう」
──ああ……どんどん準備が整えられていく……。
大きなステージに立つわけでもないのに、わたしの手のひらにはじんわりと汗がにじんでいた。
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