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同級生はアイドル




私立蹊葉大学。
名門私立大学の一角として数えられる大学のキャンパスに〇〇の姿があった。
まだ朝早いせいか学生の姿はあまり多くはない。時刻は朝9時前。いわゆる1限の時間帯。

1年生の〇〇は必修単位を履修するために、眠い身体を必死に起こして講義が行われる教室へと向かっていた。

教室に向かう途中、不意に背後から勢いよく肩をたたかれる。


??「おはよう、〇〇くん!」


走りながらだったのだろうか、勢いに負けて思わずつんのめりそうになる身体を必死に我慢しながら、目の前で満面の笑みを向けながら立っている同級生の姿をみながら挨拶をかえす。



〇〇「おはよう、美玖ちゃん」



大学の同級生の金村美玖。
学部は違うが、同じ一般教養単位がかぶっていることが多く、一緒に行動することが多い。
なぜかいつもマスクに眼鏡、帽子とまるで変装でもしているかのような変わった格好をしている。

〇〇たちの大学は、全学部共通でうける一般教養単位と、学部ごとの専門性単位に分けられて履修登録をすることになっている。


これから受けるのは一般教養単位で、美玖ちゃんと被っている講義の一つだった。


美玖「ねぇ、2限目の心理学入門の課題やった?」


〇〇「もちろん、やったよ」


美玖「お願い! 写させて! 忙しくて課題できなくて…」


〇〇「また~!? 仕方ないな…」


美玖「ほんと!? やった~、ありがとう」



美玖ちゃんはよく課題を忘れてくる。
というか課題はおろか、たまに授業に来ないこともある。
不真面目というわけではない。
授業はいつも真面目に受けているし、頭もいい。
でもよくは知らないが“忙しい”らしく、よくそうなってしまうのだ。
 

大学の講義室に入り、いつもと同じように窓際の真ん中よりも少し後ろよりの三人掛けの席の真ん中に二人の荷物を置いて並んで授業を受ける。

必修単位だが、教授の話を聞いているだけなので、内職も比較的しやすい。


美玖ちゃんは僕から借りた課題のプリントを受け取ると、せっせと書き写していた。

美玖ちゃんとはこの必修講義が始まったときにたまたま隣の席になったことがきっかけで知り合った。 

最初の授業だけ隣の人とペアワークをする機会があり、そこでなんとなく意気投合して仲良くなった。

とはいっても、名前が金村美玖、ということくらいしか知らない。

いちおう連絡先は知っているが美玖が忙しくて授業を欠席するときの代欠をするときとかに連絡する程度だった。

彼女はいつもマスクと眼鏡をしているので、正直素顔すらほとんど見たことない。

そして、彼女は金村さんとよぶことを嫌う。
なぜかはよくわからないが、美玖ちゃんと呼ぶように言われて、今では彼女のことをその通りに呼んでいる。


黒板に写される板書と教授の話の要点を、自分のノートと美玖ちゃんのノートを並べてそれぞれに書き記していく。

授業も終わりに差し掛かった頃、隣で黙々とペンを動かしていた美玖ちゃんが大きく伸びをした。


終わったのかなと横を見ると、伸びをしながら机に突っ伏したようになりながら、瑛のほうに顔を向けて、マスクをクイッと下げて“おわったよ”と口パクで伝えてきた。

久しぶりに見た彼女の素顔はなんともいえないかわいさで、思わずドキッとした。

しかし、彼女に気づかれないように平静を装って“よかったね”と口パクで返しながら、教授のほうに視線を戻した。

その後、無事に2限目までの講義を終えてお昼休みをむかえた二人は、これまたいつもと同じように学食に行くのではなく、生協でパンやサンドイッチを買って比較的人の少ない6号館のテラスにやってきた。


普段は大学院の講義で使われるため、あまり人が多くなく、テラスは奥まった場所にあるため、人はほとんどこない。今日も二人だけだった。

テラスのベンチに並んで座り、お昼を食べる。

彼女はお昼はそこまで食べない。
スタイルが良いから気をつかっているのだろう。
三個入りのサンドイッチを美味しそうにぱくぱくと食べている。

それだけで足りるのかと以前に質問したら、朝はがっつり食べてるから大丈夫!、と笑顔で答えていたので、まあ大丈夫なのだろう。



〇〇「そういえば、美玖ちゃんは3限以降はでるの?」



美玖「あー、ちょっと用事があってでれないんだよね…」



〇〇「りょーかい。代欠しておくね」



美玖「いつもゴメンね、ありがとう」



〇〇「貸し1ねww」



美玖「えー、なにがいい?」



〇〇「そうだな、じゃあ今度飲み物でも奢ってよ」

 

美玖「そんなのでいいの? そういえば、〇〇くんって、好きなものとかってなにかあるの?」


〇〇「すきなもの? そうだな…」



美玖ちゃんに尋ねられて、瑛は手にしていたパンをおもむろに口に運びながら考える。

正直、趣味と呼べるものがあまりない。半ば惰性的に続けているギターとかはあるけど、好きなものといわれると、自信を持って答えられない気がした。

目の前に広がる青空を眺めながら、ふと思ったのは菜緒と遙香のことだった。



〇〇「んー、好きというのはあれだけど、アイドルとかはちょっと気になってる」


美玖「え?」



僕が発した言葉に、美玖ちゃんは予想以上に驚いた表情を見せる。



美玖「アイドルが好きなの?」



〇〇「あ、いや、好きというか、正直最近まで全然知らなかったんだけど、知り合いが好きでさ、曲は聴くようになったんだ。それで良い曲がおおいなーと思って少しハマりはじめてる」



美玖「そうなんだ…」



美玖ちゃんはもっていたペットボトルのお茶を膝上で抱えたまま黙ってしまった。


ヤバい、気持ち悪かったかな。
そう思い、後悔しかけたときだった。



美玖「ちなみに、アイドルグループで好きなグループとかあるの?」



美玖ちゃんは僕の真正面に向き直ってそう尋ねてきた。



〇〇「え、うーんと、乃木坂46と日向坂46かな」



美玖「っ!?」 



美玖ちゃんの問いかけに、僕はとっさに嘘をついた。さすがに遙香と菜緒の幼馴染みだなんていえない。
とっさに知り合いが好きだと嘘をついた。



美玖「ち、ちなみにメンバーとかって知ってる?」



〇〇「お恥ずかしながら全然ww あ、でも乃木坂だと賀喜遙香と、日向坂だったら小坂菜緒はしっているよ」



美玖「なんでその二人なの!?」



なぜか少し焦ったように僕に言い寄るような格好でそう尋ねてくる美玖ちゃん。
こんな美玖ちゃんをみるのははじめてだから、少し驚いたが、なんとか返事を返す。




〇〇「し、知り合いが好きだって言ってたからかな、ハハハ…」



美玖「そ、そうなんだ」



変な沈黙。美玖ちゃんは、じっと俯いてしまった。

その瞬間、お昼休みの終了をつげる予鈴が鳴り響いた。



美玖「あ、ご、ごめんね変なこと聞いちゃって」


〇〇「ううん、全然。午後の用事、頑張ってね」



美玖「うん、ありがとう!」



僕の言葉に、美玖ちゃんはいつもの笑顔でそう返してくれた。   






Side 美玖

大学を午前中で早退した私は、マネージャーさんにむかえにきてもらって次の仕事の現場にやってきた。

楽屋に案内され、入口には“日向坂46さま”と紙がはられている。
 


美玖「おはようございまーす」



ドアを開けて中に入るとすでに数人のメンバーがいて、ところかしこから返事が返ってくる。

なんとなく空いている場所に荷物を下ろす。



菜緒「美玖、おはよう」




斜め向かいで本を読んでいた同じ日向坂46のメンバーの小坂菜緒が優しい笑顔で私にそういった。



美玖「おはよう菜緒」



私も笑顔で菜緒に返す。

菜緒とは“ナオミク”といわれるほど仲が良い親友ともいえる大切な関係。

でも、先ほどの〇〇くんとの出来事があったからか、なぜか変に意識してしまいそうになる。


いけないいけない。こんなことでは。

私はアイドル、金村美玖なのだ。

そう決意を新たにしたときだったのに、ふとバックからスマホを取り出すと、〇〇くんからメッセージがきていた。



〇〇「〈おつかれさま! 3限の授業で課題が出たから次あったとき渡すね。またね!〉」



〇〇くんから送られてきたメッセージは一見するとただの業務連絡のような文章。

でも、たったそれだけの文章でも、私にはスゴく嬉しく感じた。
彼と繋がっている、それだけで今は嬉しかったんだ。


そして、また彼に会えるのだと。


うすうす感じてはいた。アイドルとしては決して許されない感情を持ち始めているいうことには。
でも、そんな思いには気づかないふりをして、彼にメッセージを返す。



美玖「〈ありがとう! また今度会えるの楽しみにしてるね! またね~!〉」






つづく

この物語はフィクションです
実在する人物などとは一切関係ございません。

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